2025年度の国の予算案のうち、社会保障関係費の構成
項目である「医療」の前年度からの伸び率(対GDP比)
日本経済がデフレからインフレ経済へと転換する中、日本財政の懸案であった社会保障予算でも興味深い現象が起こり始めている。
その象徴が、2025年度における国の一般会計予算案だ。今回の予算案は約115兆円で、そのうち最大の支出項目は社会保障関係費の約38兆円。主な構成は、「年金」が約13.6兆円、「医療」が約12.4兆円、「介護」が約3.7兆円で、「福祉等」が約8.3兆円だ。
このうち、予算上、最も大きな伸びとなった項目は何か。25年は、団塊の世代が全て75歳以上になる年である。原則65歳が受給年齢である年金と異なり、医療費や介護費は75歳以上から増加するため、常識的には「医療」や「介護」と思いがちだ。しかし、財務省の資料によると、実は「年金」が対前年度比2.2%増と最も伸びが大きい。次が「福祉等」の同1.9%増で、「医療」は同0.8%増、「介護」は同0.2%増にすぎない。
年金の伸びが大きいのは、支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」が25年度も発動されるものの、年金給付額の引き上げが改定されるからである。他方、医療や介護の報酬改定は原則的に2~3年ごとであり、24年度が同時改定であったため、25年度では基本的に改定されない。
また、内閣府の政府経済見通し(24年12月)では、25年度の実質GDP成長率は1.2%にすぎないが、名目GDP成長率は2.7%と予測している。この予測が正しければ、「年金」は対GDP比▲0.5%でおおむね横ばいだが、「医療」は同▲1.9%の伸び率、「介護」は同▲2.5%の伸び率に抑制できることになる。主な原因はインフレ効果に他ならない。
もっとも、今年の通常国会では、自公政権が少数与党であるため単独で予算を可決できず、与野党の攻防が激しさを増すだろう。国民民主党とは「103万円の壁」の協議、日本維新の会とは教育無償化への対応などがあり、その行方も予算に影響を及ぼす。この注視も重要だが、インフレ効果が予算に及ぼす影響についても少し考察してみることが必要だ。
(法政大学 教授 小黒一正)