預金や融資など、地方銀行の基本業務を支える「勘定系システム」。その開発・運用を担っているNTTデータと日本IBMが、激しい「地銀争奪戦」を繰り広げている。地銀を囲い込む2社の戦略とは何か。地銀にとってはどちらの陣営に付くのが得なのか。特集『銀行・信金・信組 最後の審判』(全16回)の#3では、錯綜する地銀とITベンダーの思惑を解説する。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)
広島銀行の“心臓”切り替えと
NTTデータの決断の背景とは?
2022年11月、地方銀行とITベンダー業界を騒がせた“事件”が起こった。
中国地方の有力地銀で、預金量が全地銀100行中9位の広島銀行が、利用している勘定系システムを日本IBMからNTTデータへ乗り換えることを決めたのだ。
さらに、広島銀の乗り換え先であるNTTデータは、銀行の勘定系システム専用のクラウドである「統合バンキングクラウド」を30年に運用開始することを決定。現在提供している「地銀共同センター」「STELLA CUBE」「BeSTAcloud」「MEJAR」の四つの勘定系システムのデータセンターなどを、段階的に統合していくことを発表した。広島銀は「統合バンキングクラウド」が稼働する30年に、「MEJAR」へ合流する予定だ。
地銀の勘定系システムは預金や融資などをつかさどる、銀行の“心臓部”だ。そんな心臓部の切り替えには莫大な手間と時間、行内の事務手続きの大変換という負荷がかかる。それに、切り替えに当たって不具合でも起きれば、みずほフィナンシャルグループがそうであったように、経済活動を止めてしまうリスクもある。
そうした銀行の常識があるからこそ、広島銀の乗り換えの一報に業界の耳目が一気に集まった。
また、NTTデータの「統合バンキングクラウド」の発表も衝撃をもたらした。
業務システムの開発や運用をITベンダーに依存したが故に、ユーザーが利用し続けなければならない「ベンダーロックイン」という言葉があるが、地銀とNTTデータの関係はまさにそれ。NTTデータにとって、地銀各行は“ロックイン”している上顧客だ。その上、NTTデータは地銀システム市場でシェア4割強を握るマーケットリーダーである。
それにもかかわらず、NTTデータは「統合バンキングクラウド」を提供するために身銭を切って開発を続け、30年に提供を開始することを決めたのだ。
勘定系システムのクラウド化は、コスト削減が見込めるため多くの地銀は歓迎するだろう。だがシェアトップのNTTデータがわざわざ率先して取り組む必要はなかったのでは――。
そんな見方も業界内からは聞こえてくる。
なぜ広島銀の乗り換えと、NTTデータの「統合バンキングクラウド」の開発という動きが出てきたのか。次ページで、その背景を解説していく。