レビュー
最後に銀行窓口に行ったのがいつだったか思い出せない。残高をスマートフォンで確認するようになってからもう何年も経つ。近年、新聞で銀行の苦境を報じる記事を頻繁に目にするようになった。投資信託などの金融商品の販売をめぐってはネット証券などに押され、銀行を取り巻く環境は厳しい。
一方、銀行の営業姿勢を問題視する声も少なくない。以前同い年の友人が、知り合いの銀行員からノルマ達成のために口座を開設してくれないかと迫られて困っていた。若手行員による座談会の記事で、自社の利益を最優先させよという指示に戸惑ったというコメントも読んだことがある。
そうした不安や課題を抱える銀行を横目に、信用金庫は顧客と自社の利益を両立させ、シェアを拡大しているらしい。本書『なぜ信用金庫は生き残るのか』は信用金庫の強みを隅々まで教えてくれる。顧客の事業の成功のため、数値だけでなく経営者の人柄まで考慮に入れて融資する。売れる商品でも投機的なものは扱わない。著者自ら取材した豊富な事例を紹介しつつ、信用金庫のビジネスモデルが平易な言葉で解説されている。
信用金庫のそうした真摯な姿勢は、地元企業からの信頼を勝ち取り、さらなる取引につながっていく。一見非効率そうでも結果的に利益を生む循環には納得できた。
本書は信金の歴史を語るうえで欠かせない、個性的な人物たちの言動も紹介し、最後まで読者を飽きさせない。金融業界の人はもちろん、業界になじみのない人にもお読みいただきたい。(まゆ)