意識して曲げることはできないが、ベッドで横になっている時と車椅子に座っている時以外の幻肢はほぼ90度に曲がっている。曲がっている感覚はわからないが、膝を曲げた位置に足先の痛みを感じるようになった。この痛み(本当は痛みじゃないかもしれないけど)はどうやったら治るのだろうか。病室を訪れる整形外科医や看護師、理学療法士を捕まえてはやたらと幻肢痛について話を振ったりしている。

 ある日訪れた薬剤師にも同様にいくつかの質問を投げかけていた。「今飲んでいる薬以外でも幻肢痛に効くものはあるのか?」「どうして神経系の薬で対応するのか?」などなど。すると丁寧に悩んでくれたあと面白い返答があった。

「薬は(身体が)あるところにしか作用しないですからね……」

 その通りだなと思った。飲み薬が自分の身体ではない箇所に作用するはずはない。ただ、妙に“医学”っぽい回答に、幻肢痛の奥深さを感じてしまった。

残った右足同書より転載 拡大画像表示

切断はポジティブな選択
日常の負担が解消できた

 退院して数日が経ち、病院よりも動き回る分やはり体力の低下を感じているけれど、久しぶりに会う人たちからは「前より元気そうだね」と言われる。確かに切断前よりも身体全体としては調子がいい気がする。

 自分にとって今回の切断はとてもポジティブな選択だった。

 これまでは人工関節の入った足をかばって生活していたこと、人工関節の延長手術によって膝がほとんど曲がらなくなっていたこと、左右の足の長さの違いで背骨や腰に負担がかかっていたこと、炎症によって出てきた滲出液の処置を毎日自分で行なっていたこと、平常の10倍近い炎症反応があったこと、ほぼ毎日ロキソニンを飲んでいたことなどなど。細かいことまで挙げれば、曲げられない足ではラーメン屋のカウンター席のように狭い座席に座りにくいだとかキリが無い。これらが切断によって解消するというメリットはとっても大きいものだった。

 そういうメリットと同時に、欠損とは何かを考えている。