
失ったはずの手足が痛む「幻肢痛」とはどういう感覚なのか?30歳の時に右足を切断した著者は、術後の痛みのパターンやイメージを詳しく記録していた。※本稿は、青木彬『幻肢痛日記:無くなった右足と不確かさを生きる』(河出書房新社)の一部を抜粋・編集したものです。
右足の大腿骨を切断後に
幻肢痛の緩和策を色々試してみた
遡ること12歳の誕生日。どこかにぶつけてしまったのか、成長痛なのか右足の痛みが続いていたので病院へ行くと、膝下あたりの骨に骨肉腫が見つかった。すぐに入院となり数カ月にわたり抗がん剤治療を続けて腫瘍の活動を抑制した後、膝上から足首までの骨を切除し、膝関節の代わりとなる人工関節を入れる手術を受けていた。その後は大きな不具合もなく、大人になり、キュレーターとして忙しく過ごしていた。しかし30歳のある日、夜道でつまずいた際に右足が激しく痛み、病院に駆け込んだ。すると、その人工関節が刺さっている大腿骨部分が感染症を起こして骨が溶け出していることがわかったのだ。そのため医師から切断を提案されたわけだが、それは具体的には感染症を起こしている大腿骨から先を切断するというものだった。
医師の見立てによると、僕の場合はちょうどいい長さで大腿骨を切断できそうだということだった。ちょうどいいというのは、切断後につける義足をうまく使うために必要な、残された足の長さのことだ。義足をつけた際に左足の膝と同じくらいの高さに右膝のパーツを持ってくるためには、適度な長さを温存して切断する必要がある。僕の場合は足の付け根からおおよそ20センチくらい足が残せることになった。切断した足の先端は肉の塊なので、むちっとした愛らしい印象となる。大腿骨で切断することを大腿切断、温存された部位を断端と呼ぶ。
術後から3日程度は要安静だったので、強まっていく幻肢痛の緩和として色んなことをベッド上で試してみていた。

ノリツッコミと
“痛いの痛いの飛んで行け”
(1)ノリツッコミ
自分の中で「いやぁー、右足首が痛くて。……って右足無いじゃん!」と唱えることで、切断されてるという情報を第三者目線で指摘し、右足が無いことを思い出させる。
(2)痛みのある空間を手ですくって捨てる
痛みを感じる辺り(具体的には断端面から40~50センチの空間)を手で払ったり、空間を手ですくってベッドの脇に捨てる。いわゆる“痛いの痛いの飛んで行け”方式。
これらは効果あるんだか無いんだか、というかほぼ無かった。(1)はたまーに、効いたか?みたいな瞬間はあったけど、たまたま痛みが引いただけ、もしくは気が紛れただけかも。