JR時代に絶滅した
ブルートレイン
同様に利用形態の変化を受けて、この37年間で絶滅したのが夜行寝台特急、いわゆる「ブルートレイン」だ。
1986年の東京駅は、九州方面の「さくら」「はやぶさ」「みずほ」「富士」「あさかぜ」、山陰・中国方面の「出雲」「瀬戸」など最大13本の夜行列車が発着していた。上野からも東北方面の「あけぼの」「はくつる」「ゆうづる」が計9本、日本海方面の「北陸」「出羽」が計2本など、さまざまな列車が存在した。
寝台特急列車は都心を夕方から夜に発車し、午前中に目的地へ到着する。乗車時間は10~20時間に及ぶが、車内で食事、就寝、身支度を済ませることで、目的地に到着し次第、すぐに用事に取り掛かれる。
代表的なのは東京~大阪間で運行された夜行急行「銀河」だ。この列車は新幹線の最終新大阪行き(東京発21時、新大阪着23時52分)より遅い22時45分に東京駅を出発し、始発(東京発6時、新大阪着8時56分)より早い7時43分に大阪に到着する。
「銀河」は宿泊に特化した列車だったが、より乗車時間が長い列車は食堂車を連結した。つまり寝台特急とは乗車券(航空券)、ホテル、レストランをパッケージにしたサービスであり、長距離移動の多くを鉄道が担っていた時代だったからこそ必要な列車だった。
ところが航空機の大衆化に加え、ビジネスホテルが急速に拡大したことで、移動、宿泊、食事を個別に手配した方が自由かつ安価になり、パッケージであることが逆に弱点となった。
実際、現在の業界上位3位である東横イン、アパホテル、ルートインジャパンはいずれも1980年代、続くスーパーホテル、共立メンテナンス(ドーミーイン)は1990年代にビジネスホテル業に進出した。
夜行列車は民営化によって消えたサービスの代表例とされがちだが、経営環境の変化で必然的に役割を終えたのである。現在、唯一生き残る寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」はかつての「銀河」と同じく、新幹線や航空機より遅く出発し、早く到着する列車だ。他の列車は例外なく、1990年代半ばから2000年代にかけて順次廃止されていった。