性的魅力をあらわす「フェロモン」という言葉があります。男性のフェロモンは声やルックスであると認識されがちですが、恋愛の状況では、経験値が一種のフェロモンとして機能する、と私は考えます。経験値があると対応がこなれて、相手に好印象を与えられるようになるからです。

 経験値自体が魅力になるならば、チャレンジを重ねて経験値を増やす必要があります。ただし、同じチャレンジを繰り返していても無意味です。チャレンジだけでは経験値は増えません。

 哲学者の森有正は、『生きることと考えること』(講談社現代新書)という本の中で、体験と経験を区別して解説しています。簡単にいうと、誰でも日々体験をしているけれども、体験が経験として意味を持つためには、そこに何かしら新しい意味を見出す必要がある、ということです。

 体験が経験にならなければ、同じような失敗を繰り返すだけ。逆にいうと、気づきを得られるなら、チャレンジした結果の失敗には、とても大きな意味があります。失敗覚悟でチャレンジをして、経験と気づきを得られるのなら、チャレンジしないのはもったいないと思うのです。

イレギュラーな経験が
「気づき」につながる

 仕事は常に順調とは限らず、予想外のトラブルに見舞われる可能性があります。不測の事態に直面したときこそ、私たちには気づきの力が求められます。

 トラブルに対応する気づきの力は、一朝一夕に養えるものではありません。イレギュラーな出来事を数多く経験し、それに1つひとつ対処していくのが一番の近道です。

 私の経験をご紹介しましょう。以前、講演を行っている最中に、会場が停電になるというアクシデントに見舞われたことがありました。目の前が一瞬で真っ暗になり、200人もいるお客さんの姿は見えず、マイクも使うことができません。

 しばらくは様子を窺っていたのですが、すぐに復旧する見込みはなさそうです。このまま大人しく待ち続けるのもつまらないと思い、大きな声でお客さんに呼びかけました。