「じゃあ、これからゲームをやりましょう。この中のどなたでも結構ですので、大きな声で『1』といってください。そうしたら、誰でもいいので別の人が『2』と声を上げてください。そのまま10まで声が重ならずにスムーズにカウントできたらゴールです。どこかで声が重なってしまったら、もう一度1に戻ってやり直しです。ではスタートしますよ。どうぞ!」

 一瞬の静寂があり、誰かが「1」と声を上げました。すかさず別の誰かが「2」と続けます。次に「3」という声が聞こえたと思った瞬間、まったく同じタイミングで別の場所からも「3」という声が上がりました。

 会場の200人からいっせいに「あー」というため息が漏れました。実際に声を出してゲームに参加したのはたった4人ですが、がっかりするのは会場にいる全員なのです。「では、もう一度やり直しますよ」

書影『「気づき」の快感』(幻冬舎)『「気づき」の快感』(幻冬舎)
齋藤 孝 著

 再び、「1」「2」……とカウントしていくのですが、なかなかうまくいきません。何度目のチャレンジだったでしょうか。ついに「10」まで達成する瞬間が訪れました。暗闇の中から200人が大歓声を上げ、いつにも増して講演は盛り上がったのです。不安な時間を、楽しいひとときに変えられたという効用もありました。

 数をカウントしていく協力ゲーム自体は、小学校などで行われるポピュラーな遊びですが、ここでのポイントは「暗いところでやったほうが盛り上がりそう」というアイデアを思いついたところにあります。

 私がアイデアを思いついたのは、ライブの機会をたくさん経験しながら、常に気づきを求めていたからだと思います。

 私は授業や講演、テレビ出演などライブで話をする機会を日常的に経験しています。ライブではトラブルや予想外の出来事がしばしば起こります。ちょっとしたイレギュラーな出来事に対応していくうちに、自然と修正力やとっさの気づき力が身についたのです。