「バングラデシュで商売などできるのか?」
これが日本人ビジネスパーソンの率直な印象だろう。最近は、縫製工場が入居するビルの倒壊や火事など、想像を超えたアクシデントと背中合わせでもあり、バングラデシュのイメージは決していいものではない。
今回はその縫製工場が舞台だ。バングラデシュの縫製は輸出の8割を占める一大産業だが、実は100人規模の小規模工場が多く、それが雑居ビルに入居する形で生産活動を行っている。
筆者は、ダッカ空港にほど近いウットラ地区の縫製工場を訪ねた。土埃舞う路地に面して立つ複数階建ての工場は、「ここが工場だ」と言われなければ素通りしてしまいそうな、雑居ビルのような外観だ。民家や売店、工場がひしめき合うその道は、トラックも往来すれば、商人や学生、ヤギや野良犬も行き交う雑多な界隈である。
地元資本の「Fashion Flash」という名のその会社は、1995年の操業以来、H&Mを主要顧客にここ数年デニムの縫製で急成長を遂げた。ウオッシング(洗い)、ダイイング(染め)からソーイング(縫製)までの一連の作業を手掛ける。バングラデシュに5工場・8000人が働き、1日2万5000着の生産が可能だ。見かけは確かに“雑居ビル”だが、外国とも取引のある中堅工場である。
バングラデシュではメディアはノー、カメラもノーという工場は少なくないが、同社は違った。「我々はコンプライアンスを重視していますから」と社長のハラル・ウッディン・アーマドさんは胸を張る。