稲盛退任後、JALは本当に
後戻りすることはないのだろうか
稲盛が去った後のJAL。
JALフィロソフィ教育でファシリテーターを務める中村は、現場の社員もそのことを意識している人が多いと言う。ちなみにJALフィロソフィ教育は意識改革の要をなす社員研修で、教室は倉庫を改造、教材も手づくり。研修の進行役を務めるファシリテーターも、現場の社員である。
1993年の入社の中村も、本業はキャビンアテンダントだ。
中村 社員の間では、稲盛さんが退任された後が本当の意味での正念場だよねって、お互いに話をしています。
自分たちが本当の意味でしっかりやっていくためには、稲盛さんがいなくなったときこそ、いろいろ教えてくださったことを、着々と、淡々と、やっていけるかどうか。それが、この会社の存続のカギなんじゃないかと、現場の社員一人ひとりが意識をしています。
今度何かあったら本当に会社は解散してなくなると、そういう意味での健全な危機感は、若い人でも持っている気がします。
社長の植木自身は、稲盛なき後のJALをどう考えているのだろうか。
もう破綻前のJALに後戻りすることはないのだろうか。
植木 どこへ行っても必ずそれを尋ねられます。
正直に言えば、稲盛さんがこの会社のすべてを、お一人で変えたわけではありません。仕組みの話をすれば、おそらく稲盛さんが会長に着任されていなくても、会社更生法の適用が申請されて、管財人や企業再生支援機構にご支援いただきながら、それなりに仕組みの部分はできていたのだと思います。
けれど、結局、仕組みは仕組みであって、そこに魂を入れなければ、実は何も変わらない。そこの魂を入れてくれたのが他でもない、稲盛さんなんです。
その意味では、今のこの会社を誰がつくったかというと、やっぱり稲盛さんなんですよ。やっぱりあの人が来ていなかったら、今のJALはなかった。大変感謝しています。
だから、みんなから「稲盛さんがいなくなりますけれど、植木さん、社長として大丈夫ですか」って聞かれてしまう。
「非常に不安です。だからこそがんばります」というのが、一応、公式の答えです。しかし、本音で言えば、「社員みんなでがんばれば大丈夫。必ずいい会社になる」、こう思っているんですよ。