半導体の重要性は近年増すばかりですが、大量の半導体を必要とする生成AIの普及により、政治的にも経済的にも一層の注目を集めることになりました。一個人にとっても、今や半導体についての知識はビジネスや投資で成功するために欠かせないものとなっています。
この連載では、今年1月に新たに発売された『新・半導体産業のすべて』の一部を抜粋・編集し、「3分でわかる世界の半導体企業」をコンセプトに紹介していきます。今回は、エヌビディアとも密接な協力関係を築き、日本での存在感も増している「マイクロン・テクノロジー」について解説します。

エヌビディアとの協力関係Photo: Adobe Stock

エヌビディアとも密接な協力関係を築く

マイクロン・テクノロジー
売上高 155億4000万ドル(2023年)
従業員 4万6000名

 マイクロンはDRAMやフラッシュメモリの他、メモリカード、SSDなどを提供しているアメリカのIDM企業の一つで、本社はアイダホ州ボイシ市にあります。

 1978年に創業され、80年にアイダホ・ポテトで知られるシンプロット氏が同社を買収。その翌年からDRAM事業に参入し、その後TI(テキサス・インスツルメンツ)の半導体メモリ事業、2013年には日本のエルピーダメモリなどを買収し、事業を次々に拡大してきました。買収したエルピーダメモリの広島工場には8年間で1.8兆円を超える大型投資を行なったとされ、開発・生産の拠点として日本を重視してきたことが窺えます。

 2023年度、コロナ禍での半導体不足の反動としての半導体、特にメモリの作り過ぎからくる在庫調整などで、マイクロンも他のメモリメーカー同様、17億ドル超の赤字を出しましたが、2024年第3四半期の8月決算では、前年同期比で売上、利益とも大幅に改善し、営業黒字を達成しています。データセンター向けやサーバー用、HBM(High Bandwidth Memory)などが業績向上に寄与した結果です。

 マイクロンの最近の目立った活動として、2024年7月に世界最速データセンター向けSSDとして第9世代のNANDフラッシュの量産、同年4月にゲームとAI向けの次世代グラフィックスメモリのサンプル出荷、同4月に200層を超えるスタックでQLC(4ビット/セル)のNANDを採用したSSDなどがあります。

 また2024年8月には、生成AI向けで急増しているHBMを広島工場でも製造することをアナウンスしています。なお、5000億円の投資のうち1920億円を日本政府が支援することになっています。

 EUV露光は2025年から導入し、2026年から1γ(ガンマ)DRAMから適用する計画です。

 マイクロンは持続的な技術開発に加え、エヌビディアとも密接な協力関係を築いていて、AI用途向けの次世代GPU対応として、HMB3eメモリも提供しています。

 マイクロンは、今後ニューヨークとアイダホに4工場を建設する計画で、最初の2工場に米国政府が9500億円の補助をすると発表しています。さらにマイクロンは、インド政府の70%の補助のもと、インドのグジャラート州に27.5億ドルをかけて後工程の工場を建設予定です。

菊地 正典(きくち・まさのり)
1944年樺太生まれ。東京大学工学部物理工学科を卒業。日本電気(株)に入社以来、一貫して半導体関係業務に従事。半導体デバイスとプロセスの開発と生産技術を経験後、同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。2024年7月から内外テック(株)顧問。著書に『入門ビジュアルテクノロジー 最新 半導体のすべて』『図解でわかる 電子回路』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(日本実業出版社)、『半導体・ICのすべて』(電波新聞社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。