顔面の手術を傷跡残さず
縫合した形成外科の名医
その1週間後、オペ室のナースがバイクで事故を起こした。ヘルメットが割れて、顔の中央に縦に傷がついていた。まだ若いナースである。千里は同僚の顔を見て、(痛そう!この傷、残らないかしら?)と反射的に心配になった。
手術室にはすぐに形成外科の部長が来た。局所麻酔で傷を縫うという。千里は固唾を呑んで手術を見守った。
(お願い!上手に縫って)
部長の手術は本当にうまかった。
傷を生理食塩水で洗い、小さなガラス片を傷の中から辛抱強く全部取り出すと、細かく細かく皮膚を縫い合わせていった。手術が終わったときには、きれいに皮膚がぴったりと寄っていた。さすが形成外科医だと千里は感動した。
「よし!縫い終わった。明日から洗顔していいぞ。お化粧もしていいぞ。絶対にお嫁に行けるから安心しろ!」
千里は心の中で(おお!)と歓声を上げていた。自分が怪我したら、絶対に部長に縫ってもらおう!
針で一気に仕留める“必殺仕事人”
「梅安先生」はナース全員が苦手
オペ室にはさらに問題があった。それは麻酔科外来である。麻酔科医の仕事はもちろん手術患者に麻酔をかけることだが、外来診療もやっている。それはペインクリニック(痛みの治療)だ。麻酔科の部長はペインクリニックの名人だった。ここ!という場所に針を刺して、局所麻酔を注射するのである。
何が問題か?それは麻酔科外来の看護師がこれから産休に入るので、後任看護師をオペ室から出すという話になっていたことである。
部長先生は職人気質のところがあり、とにかく気難しいと院内では評判だった。普通、外来の看護師は数年で交代するが、麻酔科だけは同じ看護師がずっと担当していた。つまり部長のお気に入りだったのだ。
師長はみんなを集めて相談した。
「誰か麻酔科外来に行ってほしいんだけど、どうだろうか?私は交代がいいかと思っている。曜日ごとに交代するとか、1週間単位で交代するとか。オペ室ナースは、実践から長く離れてはダメ。勘が鈍るから。どうかな、誰か行ってくれる?」