
三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第30回は「試験会場の人間模様」について考える。
駅前の「応援団」に寂しさを覚えた
東京大学現役合格を目指す天野晃一郎と早瀬菜緒のために、英語リスニングを教える特別講師・鍋明美。合否の分け目となる英語に対して、彼女は「人目なんか気にしない!」と指導する。
2月も終盤になり、私立大学ではすでに合否が発表されているところも出てきた。2月25日からはいよいよ国公立の二次試験(前期)が始まる。
受験生は今頃合格へ向けて必死に勉強しているだろう。すでに合格を確信して(あるいは諦めて?)ゲームをしている人もいるかもしれない。残念ながら、最後の追い込みをした人が落ちることも、ゲームをしていた人が受かることもあるのが受験だ。
ちまたに溢れている受験直前のアドバイスを読んだところで受かる確証はないし、かえって時間の無駄とさえ思う人もいるだろう。どうせなら、本筋とは全く関係ない、試験会場での思い出を書いてみよう。
東大の二次試験は、文系は駒場キャンパス、理系は本郷キャンパスで受ける。私は文科二類を受験したので駒場に行ったのだが、最寄りの駒場東大前駅を降りた瞬間に、塾や学校別の応援団が大挙して待ち受けていた。
自分には向けられていない、右から左に通り抜けていく激励の声を耳に、「僕は誰にも応援されていない」という妙な寂寥感で涙が出そうになったものだ。
英語の試験会場では、よくわからない言語が書かれたジャージを着た受験生の後ろで「これはガムテープで隠すべきなのだろうか?(英語の試験では不正防止の観点から、英語が書かれた衣類の着用が禁止されている)」と試験官が真剣に協議していたのも忘れられない。
他にも、受験直前の講座を休んだばっかりに、私が共通テストで失敗したと思い込んでいた塾の友達と、試験会場で偶然再会したこともあった。ちなみに、その友人とは合格祝勝会で再び会うことができた。
受験期を支えた、YouTuberのメッセージ

そういえば慶應義塾大学を受けた時、試験終了後に鉛筆を動かしているように見えた受験生を注意した試験官がいた。彼女があまりにもドラマ『女王の教室』に登場する阿久津真矢(天海祐希)そっくりで、思わず吹き出しそうになったこともあった。
慶應の受験会場を後にする際、一人暮らし用のアパート紹介が書かれたティッシュを配る業者のすぐ横で、スピーカーを抱えてのぼり旗を掲げた学生団体がガザ停戦を訴える演説をしていた。規模も親近感も全く異なる視点からの、しかし紛れもなく存在する2つの「対処すべき課題」が共存していることに、不思議な感覚を抱いたものである。
たった3回受験会場に行っただけなのに、今思い返すと変なエピソードばかりが蘇る。試験会場ではこんなふうに、テスト内容とは全く関係のない些細なことに、しばし思いを馳せてみるのも得策かもしれない。少しの間かもしれないが、緊張を忘れることができる。
毎年この時期になると、多くの有名人が受験生を応援するメッセージを寄せる。自分はこの言葉に支えられてきた、と思うような言葉を大切にとっておいている人もいることだろう。
私はYouTuberでんがんさんのメッセージが忘れられない。多くの人から、時に空虚に思えてしまう「頑張れ」の声をかけられる中で、受験生の心理に寄り添ったこの言葉からは、格別の暖かさを感じた。
「頑張れとは言わない。君はもう頑張ってるから。ただ諦めるな」
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