「現代の若手社会人の“働きがい”が低下しているのには理由があります」
そう語るのは、著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』がベストセラーになるなど、メディアにも多数出演する金間大介さん。金沢大学の教授であり、モチベーション研究を専門とし、その知見を活かして企業支援もおこなっています。
その金間さんの新作が『ライバルはいるか?』です。社会人1200人に調査を行い、世界中の論文や研究を調べ、「誰かと競う」ことが人生にもたらす影響を解き明かしました。挑戦する勇気を得られる内容に、「これは名著だ!」「人生のモヤモヤが晴れた!」との声が多数寄せられています。この記事では、本書より一部を抜粋・編集して、「働きがい低下の理由」を紹介します。

「無菌状態化」する日本企業の職場環境
僕は講演などでよく「日本企業の職場環境は無菌状態化してきた」という言い方をする。
日本企業の多くは、残業を含めた労働時間を着実に減らすとともに、各種のハラスメントへの対策を強化することで、職場を働きやすく、クリーンな場に変えてきた。
僕が子どもの頃、父親の職場へ足を踏み入れたとき、最初に思ったのは「煙たい」だった。床上1.5mほどの高さに、薄っすらと、でも確実に目視できるタバコの煙が漂っていた(どうしてタバコの煙はあの高さに留まるのだろう)。こう話しても、もう頷いてくれる人の方が少なくなってきた印象だ(当然、大学生相手に通じるわけもなく)。
今はどの職場でもタバコをぷかぷか吸うことはないし、女性社員に対し「女は愛嬌が一番」なんて言ったら一発アウトだ。若い男性だからといって「お前」と呼ばれることはなくなったし、お花見の場所取りも、歓送迎会の予約も、今や先輩社員の仕事であり、若手社員は悠々と一番最後に登場すればいい時代だ。
これは先日聞いた話だが、ある先輩社員が栄養ドリンクを片手に、後輩社員に対し「今日残業できる?」と訊いたら、こう言われたとのこと。
「いいですよ。なんか夜まで職場に残るなんてドキドキしますね!」
残業も、もはや若手にとっては「イベント」なのかもしれない。
彼らが本当に24時間働くかどうかは別にして、どの職場も本当にクリーンになった。
そのこと自体は素晴らしいことだと素直に思う。
「競争」のなくなった現代社会
このことは、本書のテーマである競争においても当てはまる。
わかりやすい例としては、自分以外の人の成績が共有されなくなったことだ。
たとえば営業部なら、各部員の契約獲得件数一覧が張り出されなくなったとか。
本書の編集者も、自分の成績のみが上長からメールで送られるため、同僚の成績はわからないと言っていた。
学校においても、成績上位者が張り出されることは、もう皆無と言っていいだろう。
このようなクリーンな環境を実現したのは、紛れもなく先輩たちだ。
ことあるたびに、「モラハラだ」「パワハラだ」「時代遅れだ」「石器時代か」と言われていたような世代が、総体的に見れば、自らの主張を押し殺し、後輩たちが少しでも働きやすいようにと、着実にクリーン化を進めてきた。
「働きやすさ」の追求によって奪われたもの
そして今、そんな全国クリーン化計画が、逆に一部の若者にとって、成長の機会が奪われていると感じる根源になっている。かつては「ホワイト」と呼ばれていたが、近年では「ゆるブラック」と称されている職場がそれだ。
「職場がゆる過ぎて不安」
「このままでは他の職場で通用する能力が身につかない」
「同世代から後れを取ってしまう」
そんな若者たちの想いが、相談もなく突然会社を辞めていくといった、「静かに」退職する一因となっている。詳細は、前著『静かに退職する若者たち:部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所、2024)で解説したので、ご参照いただければ幸いだ。
もちろんすべての若者に当てはまる話ではない。「ゆるくてラッキー」と思っている若者だってたくさんいる。
しかし今、僕たちの社会が推し進めている働き方改革は、そんな「のんびり派」をつなぎとめるための施策ではないはずだ。
とくに若い世代を対象とした「働きやすさ」を追求するマネジメントが、結果として彼らの「働きがい」を奪う構造になっていることを、もっと強く認識するべきだろう。貴重な人材に配慮し、ハレモノに触るように「働きやすさ」を追求することで、結果的に「働きがい」が低下しているとなれば、これは皮肉なことだ。
そして、その最たる例が競争環境の徹底排除なのだ。
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)