普通の学校と比べて授業時間が長く、授業日数が多いことも、共働きが多いこの地域で歓迎されている理由の1つだ。

 この学校では結果が全てだ。常に生徒をテストして、数値化されたデータを管理職が管理、分析し、教員の評価と指導に反映している。

 カリキュラムはシンプルで、学力標準テストの対策を中心に組まれている。成果主義を徹底するこの学校では、成績次第で新米教員でも他の教員を指導できるようになる。

 教員は、大学を出たてのエネルギッシュな若者が圧倒的に多い。長時間勤務に耐えられる体力だけでなく、夜中でも生徒からの相談に応えられる献身性が求められる。情熱的な教員が多い半面、過酷な労働環境による教員のバーンアウト(燃え尽き症候群)と離職率の高さが問題になっている。

生徒に厳しい罰則を与え
規格に準じた子どもだけを残す

 この小学校のもう1つの特徴は、非常に静かで落ち着いた学習環境をつくっていることだ。その要因は2つある。1つは厳格な学習スタンダードを設けていることだ。話を聞いている時の手の位置、立ち方、うなずき方の他に、手を挙げる角度まで決められている。

 型にはまらない子、落ち着きのない子はしだいに振り落とされていき、卒業時には学校が定めた規格に準じた子だけが残る。

 少しでも規律を守らない生徒には厳しい懲罰をくだす「ゼロトレランス」(編集部注/生徒の問題行動に対して非寛容をもってあたる指導方針。1990年代にアメリカで導入された)を用いた生徒指導方式で教員の権限を強め、若くて経験の浅い教員でもしっかりと子どもたちをコントロールできる仕組みになっているのだ。

「この『とある小学校』、どこだと思いますか?」講演の時、私は聴衆にそう質問する。

「大阪!」「東京!」「秋田!」さまざまな手が挙がる。首を横に振り続けた私が、「皆さん違います。実はこれ、ニューヨークの学校ですよ」と言うと、人々は決まって驚く。しかし、これを日本の学校だと思うくらい、結果責任、学習スタンダード、ゼロトレランスなどによる締めつけが日本の教育現場でも珍しくなくなっている、ということだろう。

「とある小学校」とは、2016年の8月まで私が住んでいたニューヨーク市のハーレムにあるKnowledge Is Power Program(通称KIPP)という大手の公設民営学校(チャータースクール)の1つだ。