(1)頸動脈に血栓が詰まったために、脳に血流が行かなくなり腫れてくる。
(2)浮腫が脳幹を圧迫しないように、頭蓋骨を切断して減圧手術をする。
(3)年齢的に若くないので、それほど浮腫が大きくならないのではと予測できる。
(4)ただし、命を救うことはできるが、左の脳が大きく損傷を受ける。
(5)大きな後遺症が残ると思われる。特に右半身は完全に麻痺する。
(6)言葉は理解できず、本人にとっては鳥のさえずりのように聞こえて、意味がわからない。
化学者である夫の
「頭蓋骨を切断」にショック
医師の説明を聴く中で、私は頭蓋骨を切断するという言葉だけが頭の中にガンガン響きました。夫は自分が学者であることに大いに誇りを持っていました。化学者であることは彼のアイデンティティであり、脳を取り囲む頭部については、特に気を付けていました。
触られるのも嫌がるくらいだったのに、自分の頭蓋骨を手術で切断したと知ったとき、どれだけショックを受けることだろうかと。
手術は脳外科教授の大熊洋揮先生が執刀してくださることになり、手術に先立って麻酔科の先生からもさまざまな説明を受けました。最後に署名する書類に目を通したとき、そこに麻酔科教授である廣田和美先生の名前を見つました。
「あ、お隣のおじさん」。
「え?」。
麻酔科の若い先生たちを驚かせてしまいましたが、廣田先生は当時住んでいた自宅のお隣さんでした。極度の緊張が続いていた中で、お隣さんのお名前を見て、何かホッとするものがあったのです。
すでに大動脈が破裂し、その治療途中での心原性脳梗塞です。
「もし手術中に再度血管が破れたりしたら、その時点ですべてはおしまいです。だから手術前に身内の皆さんはどうぞ面会してください」と言われた私と娘、義母、私の母が、ストレッチャーのそばに駆け寄りました。顔を見ても、すでに意識が朦朧としているようで、目が合うようで合いません。
しかし、東京にいるはずの私の弟の顔を見つけたとき、「え?」と驚き一瞬起き上がりそうになりました。この段階では意識があって、この説明も本人は聞いていたのかなと思います。どうしようもないのですが、辛かったと思います。