【大人の教養】大英帝国の強みがわかる「1枚の地図」とは?
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

イギリスを支えた「超意外な資源」とは?
産業革命、あるいは工業化が世界で最初に始まったのが、18世紀半ばのイギリスでした(ちょうど七年戦争のさなかです)。イギリスで最初に産業革命が生じた要因は様々ですが、その大きな要因として、「天然資源」があげられます。
産業革命の技術革新で象徴的と言えるのが、蒸気機関の実用化です。もともと、蒸気機関はニューコメン(1664~1729)という技師が、鉱山採掘の際に地下水などを排出するポンプの動力として開発したものが最初でした。
これにさらに改良を加えたのが技師ワット(1736~1819)であり、このワットの蒸気機関は紡績機などの機械に搭載され、イギリスはもとより世界全土での産業革命に多大な貢献を為したのです。
ところで、蒸気機関は何を利用した機関(エンジン)でしょう? これは蒸気、すなわちボイラーで水を熱することによって生じる水蒸気を利用したものです。ここでポイントなのが、水を効率よく熱する必要があるということです。従来の燃料の中心と言えば薪や木炭でしたが、蒸気機関に利用するには十分とは言えません。そこで、より燃焼効率の良い燃料が求められることになります。
こうして見出されたのが、石炭です。イギリスは石炭の埋蔵量が多く、豊富な炭田を国内に有していたことも、産業革命を大きく進める要因となりました。
産業革命により、イギリスには新しいタイプの都市が興隆します。それまでの都市と言えば、商取引の活性化による中世都市(経済共同体)が支配的でしたが、工業化にともない、特定の工業が盛んな工業都市が台頭します。
では、ここで下図(図74)をご覧ください。

イギリス(グレート・ブリテン島)の各地に広がる石炭層の分布を示したものですが、この石炭層の分布と工業都市(あるいは大都市)の位置が合致していることがわかります。
なかでも中西部の都市バーミンガムは、製鉄で知られた都市です。ここでは、技師のダービー父子が石炭を乾留させたコークスを燃料とし、コークス製鉄法を確立しました(現代の製鉄法の直接の起源です)。これにより、鉄材の大量生産が可能となります。
また、蒸気機関の登場により、工業以外にも、ある技術革新が生じます。従来の人力や家畜、水力に比べ圧倒的に強力な蒸気機関は、まもなく移動手段に転用されます。陸上交通ではトレヴィシック(1771~1833)により蒸気機関車が発明され、これはジョージ・スティーヴンソン(1781~1848)の手で実用化されました。
イギリスではストックトン・ダーリントン間で最初の鉄道が開通し、営利活動としてはマンチェスター・リヴァプール間に開通します。また、水上ではアメリカの技師フルトン(1765~1815)の手で蒸気船が開発されました。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』を一部抜粋・編集したものです)