「かかってこいよ!」
2人の激突が始まる
ホームに気にくわない世話人が入ると、夕食だけでなく、朝食さえ拒否した。Gさんもその世話人の1人だった。
こうした智ちゃんの人間不信は、生まれ育った環境に要因があることは、容易に想像がつく。家庭内でのネグレクト(放棄・放置)に加え、父親代わりの叔父からは暴力を受けた。肋骨骨折の重傷を負い、入院したこともあったという。智ちゃんは福祉による保護を受けると、やがてT作業所に辿り着いた。
人間不信が引き金になっていたのか、智ちゃんには多分に妄想的なところもあった。意味不明な話をスタッフに持ちかけてくると思えば、ホームの自室で奇声を上げたり、トイレの窓から怒声を発したりしたこともあった。そのため、近隣住民からクレームの声も上がった。
その智ちゃんをGさんは、「鬼軍曹」よろしく、力ずくで服従させようとした。当然、智ちゃんは牙を剥き、両者は激突することになる。前出の「かっちゃん」によると、智ちゃんは「かかってこいよ!このオヤジ!」。そうGさんを挑発して、「闘い」に挑むという。

織田淳太郎 著
「ところが」と、かっちゃんは言った。
「智ちゃん、威勢は良いけど、ご飯食べないから、力があまりないんだ。それで、Gさんにバンバン投げ飛ばされて、馬乗りにされる。僕の部屋にもドスン!ドスン!という投げ飛ばされる音が聞こえてきたもの。で、『よ~ちえん』『よ~ちえん』と言うのが、降参したという智ちゃんの合図なんだよ。Gさんも『投げすぎて背中が痛くなったよ』と言ったことがあったけど、それもあってあの2人の仲は最悪なんだよ。だって、Gさんが作業所に来ても、智ちゃん、目も合わせないでしょ」
実は、この智ちゃんに対する暴力行為に関しては、Gさん自身があっさりと認めている。私が「彼をどうやって大人しくさせているのか?」と聞いたところ、Gさんはこう答えた。
「おれ、投げ飛ばしてますから」