これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。
では、いかにして変えていくか? そのために必要な考え方やノウハウがまとめられた『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)から抜粋してみました。

店内に入ったお客様の心をつかまえる手段・ベスト14Photo: Adobe Stock

店内で過ごす時間の約80%が単なる移動に使われている

 お客様は店内で、POP、店内放送など、大量の情報にさらされますが、人間の情報処理能力には限界があります。また、お客様が店内で過ごす時間の約80%が単なる移動に使われているという調査結果があります。

 この限られた時間と人間の認知能力で情報を処理するため、お客様にとって重要な情報を選別して提供する必要があります。

「ショッパー・マーケティング」では、店内での情報選別が重要で、店舗動線、棚割り、POPなどの仕掛けを通して、ショッパーの購買行動を誘導します。

 これらの情報管理は、ショッパーの注意を特定の商品やサービスに向け、購買意欲を喚起し、非計画購買(もともと買う予定がなかったものを買ってもらう)を促し、売上を達成することを目指します。

 ちなみにお客様の非計画購買はカテゴリーレベルで約50%、ブランドレベルはカテゴリーのパーソナルユースの度合いによって大きく異なりますが、平均で約70~80%もあります。

「ショッパー・マーケティング」はこの非計画購買のお客様に商品を知覚し、興味を抱いてもらい、購買につなげるというコンバージョンを競う活動といっても過言ではありません。

 非計画購買のお客様の購買動機は、視覚的、嗅覚的、聴覚的に反応する「直感的で無意識な情報処理」の結果として生まれるものと、便益や機能、効能を理解する「客観的な解釈に基づく情報処理を得て発生するもの」、感情的な「人と人との情緒的つながりによって育まれるもの」があり、「ショッパー・マーケティング」の打ち手もそれらに影響を与えるものが存在します。

 顧客視点の購買動機とマーケター視点の打ち手として、例を挙げると次のようなものが考えられます。

●目に留まる→目立つ場所に人気商品や特集商品等を陳列する。特に入り口付近や目立つ場所が効果的。商品を魅力的にディスプレイし、顧客の目を引く。

●品質が良い→商品とパッケージの品質と鮮度とアピアランスの管理。

●お買い得→EDLP(Every Day Low Price)、月間特売、チラシ特売、ポイント還元、商品の価格を明確にし、特典やセール情報をわかりやすく表示する。

●商品を探しやすい→商品カテゴリーごとにエリアを設け、カテゴリーごとにサインやラベルを設置。顧客が効率的に売り場を探せるようにし、店内動線を最適化。機能・用途別にサブカテゴリーを構成し、ブランドブロッキングにより、視線のナビゲーションを最適化する。

●ブランドごとに商品をグループ化し、ブランドの特徴を強調する。例えば、特定のブランドの商品を一つのエリアにまとめて展示。商品は整然と並べ、乱雑さを避け、店内のサイネージ、POPは不要なものを排除し、BGMやアナウンスの音量を適切に調整する。

●メリットがわかる→商品のユニークな機能がわかるパッケージデザイン。美容と健康等のメリットのわかるPOPやSNSのコミュニケーション。

●新しさに興味を感じる→新商品・アイデアの提案:知的好奇心を満たし、新しいものの発見による快楽を生み出す。

●便利で簡単→レジで顧客が便利に買い足しや、衝動買いをできるようにする。デリバリー、セルフレジ、キャッシュレスでお客様のタイムパフォーマンスを向上する。

●清潔で心地良い→快適でクレンリネスの行き届いた環境。冷暖房は最適化され、店内はもちろんのこと、トイレや駐車場、植栽も清潔に保つ。

●心地良いおもてなし→スタッフのトレーニングを施し、親切で丁寧な笑顔あふれる接客を心掛ける。

●悩みを聞いてくれる→カウンセリングとアドバイス。機能・性能、消費者便益を解釈し、人と売場に親和性(アフィニティ)と情緒的つながりを感じてもらい、ロイヤリティ向上につなげる。

●心理的障壁が取り除かれる→特に試用が重要な商品にはテスターを設置したり、サンプルを提供。肌に合うかどうかなどを試してもらう。また、試着コーナーを作る。定期的に新商品やアイデアを集めたコーナーを設け、顧客の興味を引く。お客様のレビューを参考にできるようにする。

●環境に良い、社会貢献につながる→サステナブルな生産・加工と調達が認識されるコミュニケーション。

●楽しい→商品の使い方や効果を実際にデモンストレーションすることで、顧客に直感的にコミュニケーション。ゲームやクイズ、プレゼントなどインタラクティブな要素を取り入れて、買い物体験に楽しさと興奮を提供する。

※本記事は『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』宮下建治(ダイヤモンド社)からの抜粋です。