
鉄道の走る音そのもの、車内放送、駅のメロディ…鉄道の音を楽しむ鉄道ファンこと「音鉄」の世界は奥が深い。機材を入手すればすぐにはじめられる趣味だが、実際に目的地で録音をしてみると、犬やカラスの鳴き声や、選挙演説など、様々な雑音が立ちはだかる。自身も音鉄趣味に興じる作家の片倉佳史氏が、鉄道の音を楽しむための極意を伝授する。※本稿は、片倉佳史『鉄道の音を楽しむ 音鉄という名の鉄道趣味』(交通新聞社)の一部を抜粋・編集したものです。
突如鳴らされる警笛
予期せぬ音を楽しむ
多くの場合、「鉄道の音を楽しむ」と聞くと、そこにどんなものがあるのかを知ったうえで訪問するという印象が強いはず。確かに、駅メロディ探訪であれば、どこの駅にどんなメロディが流れているのか、事前に知ったうえで現地を訪れることが多い。
しかし、意外に思えるほど、音鉄趣味には偶発的要素が多く、対象となる音源にいろいろなものが付随してくる。例えば、駅で列車接近メロディを録音しようとしていたら、入線の途中でミュージックホーン(1*)を鳴らしてくれたとか、通り過ぎていった列車がしばらくしてから突如警笛を鳴らしたとか、居合わせた地元の人々の会話にお国訛りがたっぷりと混じっていたとか、美しい鳥のさえずりが聞こえてきたとか、その時、その場所でしか起こらない“偶然”が音源に彩りを添えてくれる。
(1*)…編集部注/鉄道車両の警笛の一種で、汽笛の代わりに音楽が流れる
まさに“一期一会”の世界である。どんな出会い、どんな偶然が待っているのか、それも楽しみのひとつとして考えたい。
インターネットの普及によって、様々な情報を得られるようになっている昨今、下調べはできるだけ念入りにやっておきたい。特に狙っている列車があれば、運用やロケーションは事前にチェックしておいたほうがよい。限られた時間でより充実した音鉄旅行を楽しむためにも、鉄道情報誌や時刻表、ウェブサイトなどで情報は収集しておこう。
可能であれば、列車の入線時刻もチェックしておきたいところである。これは列車接近メロディの録音などには不可欠である。また、終点到着後の回送についても、分かっていればそれも録音対象になるだろう。さらに、勾配区間の有無やトンネル・鉄橋の位置なども、事前にチェックができれば万全だ。
一方で、どんなにたくさんの情報を集めても、たった一度のロケハンにかなうことはない。現地に先入りし、自分自身でベストな録音場所を選びたいところである。