
多くのミュージシャンに影響を与えてきた伝説のフュージョンバンド「カシオペア」。そのキーボード奏者として活躍した向谷実氏は、幼少期からのレイルファンだ。今では駅のメロディを創ったり、鉄道シミュレーションゲームの制作や、
デジタル化が進んだ音楽
鉄道でも未来的な音が誕生
――片倉:向谷さんにとっての音楽と鉄道の関係について教えていただけますか。
向谷:私が生まれた昭和30年代というのは、日本にとっても、鉄道にとっても、激動の時代だったと思います。1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業しました。世はまさに高度経済成長期の真っ只中。そんななかで、私たちは育っていった。やはり特急列車や新幹線は「憧れの存在」でしたね。飛行機はもちろん、自家用車もまだ庶民には縁のない時代です。
――まさに花形というべき存在でしたよね。
私と同じ世代の人々は似たような感覚を持っているかと思います。本当に鉄道は憧れの対象で、私はそのまま鉄道に魅せられていきました。大人になるにつれて世界も広がり、いろいろなものを学んでいきますが、私にはその思いがより深く育っていったのです。
――音楽についてはいかがですか。
私の場合、クラシックピアノから始めてエレクトーンを弾いて、そのうちに電子楽器が出てきて、アナログシンセサイザーが出てきて、さらにデジタル化が進んだ。幸いなことに、私はそういった進化をすべて経験することができました。
――鉄道についてはいかがでしょうか。
実は鉄道も似ているところがあります。蒸気機関車から始まって、電車では吊掛モーター(1*)、チョッパ(2*)、それからVVVF(3*)が出てきましたよね。つまり車両の音が進化している。軌道にしても、ジョイント音(4*)からロングレール(5*)、高速ポイント(6*)の登場と、進化が見える。
(1*)…編集部注/台車枠と車輪軸の間に設置されたモーター
(2*)…編集部注/電流を切り刻み、電圧をかける時間と電圧をかけない時間の比率によって速度を制御する装置
(3*)…編集部注/電車の加速力と速度に応じて電圧や周波数を変化させながら交流電動モーターを動かす制御装置
(4*)…編集部注/列車がレイルの継ぎ目を走行中に鳴る「ガタンゴトン」という音
(5*)…編集部注/200m以上に溶接したレール
(6*)…編集部注/転轍器とも呼ばれ、列車をほかのレールに切り替える装置。