日枝久氏がフジテレビを辞めなくても済む本当の理由、かつてのクーデター援護者が明かす「鉄壁の素顔」フジテレビのドン、日枝久氏はかつてのクーデター劇で「信じられない強さ」を見せた Photo:JIJI

日枝氏の引退は簡単にはいかない
反撃できる余地がまだある理由

 中居正広の女性トラブルに端を発するフジテレビ大騒動は、「弁護士会のガイドラインによる第三者委員会(以降、第三者委員会と記述)を設置し、3月末までに調査結果を出す」というフジテレビの発表で、一時期より下火になりました。

 しかし、水面下で多くのメディアは、フジテレビのドン・日枝久取締役相談役の進退を取材しています。私などにも、複数のメディアから取材の依頼がきました。週刊誌の元編集長にすぎない私が取材されるのは、1992年に起きた日枝久氏を中心とするフジテレビのクーデター劇で、『週刊文春』が援護射撃とも言えるキャンペーンを展開した経験があり、当時その端緒となる「怪文書」を私が入手したことが理由です。

 私も日枝氏は引退すべきだと考えますが、そう簡単にはいかないとも思います。過去のクーデター劇を今から振り返ると、今回日枝氏が反撃できる余地はまだあると思うのです。その根拠を挙げてみましょう。

 まず、本人に引退する意思がないこと。引退するなら、2回目の記者会見において「正式な第三者委員会」による調査が決まった段階で、進退を発表したでしょう。第三者委員会によって独裁の弊害を問われ、アカの他人に「フジテレビから離れろ」と言われるのは、1988年にフジテレビ社長に就任して以降27年間トップに君臨し、「自分がいなければ会社はもたない」と考えている人物には、堪えられるはずがないからです。

 これは日枝氏に特有の感情ではなく、企業や組織を長年独裁支配していた指導者の多くが陥る傾向です。私も経験上、いくつもの会社で同様のケースを見てきました。

 フジテレビは最初の会見では、「正式な第三者委員会」ではなく、「第三者を含む調査委員会」による調査を行うと主張し、世論の猛反発を受けて、数日後に「正式な第三者委員会」の設立に方針を変更しました。私はこの決定の期間の短さにも、疑問を感じます。

 日枝氏ほどの人物が、周囲から「正式な第三者委員会設立」の要求が出ることを想定していなかったはずがありません。しかし、正式な第三者委員会であれば、当然「日枝氏辞任」という勧告が出ることも予想できたと思います。だからこそ、1回目の会見では「第三者を含む」という不思議な調査委員会を幹部に提案させたのではないでしょうか。

 そして、CM収入の急降下という現実に鑑み、数日の間に3人の弁護士を中心として、フジと関係がないメンバーによる「正式な第三者委員会」が発足しました。しかし、この委員会が本当に独立したものなのか、実は最初から日枝氏のクビを追及しないとわかっている人たちが選ばれたのではないか、ここに一番の疑問があるのです。