はじめから日枝氏のクビが
追及されない2つの理由
その根拠は2つあります。第一に、日枝氏の責任を今回の問題で会社法に照らして厳しく追及するのは困難な面があります。取締役会には出ているものの相談役なので決定権はありませんし、問題の存在が報告されたかどうかも定かではありません。
第二の根拠として、それでも法以外の道義的責任、会社指導の責任を問うには、ジャニーズ調査委員会のように、弁護士ではなく検察トップや精神科医といった別の論理で考える存在が必要なのに、今回の委員会は弁護士だけで構成されています。弁護士だけでは、この中居問題に取締役相談役の責任を問うという論理はなかなか出てきません。日枝氏は、実はこのメンバーを早期から準備していたのではないでしょうか。
次にマスコミが期待しているのは、株主総会で「物言う株主」が日枝氏の更迭を迫っている点です。かなりの株を持つ海外のファンドもいます。しかし、放送法でテレビ局には、外国人の持ち株比率を議決権ベースで20%未満に制限するよう求められているため、株主総会でフジ側とは異なる経営陣の選任を提案して争うことはできても、彼らの株持ち株だけでは勝てません。
そして、フジ・メディアHDの大株主はほとんど機関投資家です。企業名を挙げると、東宝、文化放送、NTTドコモ、ヤクルト本社をはじめ、資産管理銀行である日本マスタートラスト信託銀行や日本トラスティ・サービス信託銀行には、三菱UFJ信託、三井住友信託、日本生命、明治安田、第一生命などが投資しており、財界の主要メンバーが上位に名を連ねています。
要するに、日枝氏と関係のある企業が株の持ち合いをしている状況です。彼らが日枝氏の面子を潰す可能性は低いでしょう。「日枝氏は、取締役の人事などについて助言や提言を行うフジ・メディアHDの経営諮問委員会の委員を辞任したではないか」という反論もあるでしょう。しかし、むしろ今後、人事に口を出さない存在となった以上、彼に法的責任を問うことはもっとできなくなるとも言えます。
最後の手段は、フジテレビの社員労組によるストライキです。が、騒動当初のフジの組合員数はたった80人で、それが数日で1000人近くに膨れ上がったとのこと。社員の危機感の強さを感じますが、会社から報復人事があることも覚悟して、ストまで決行できるかは疑問です。