行動から服装まで
「老いの流儀十カ条」

 で、65歳のとき、

(1)老人の獣道をゆく(もともとの路線)
(2)ゲーム感覚の人生(行きあたりばったり)
(3)消耗品としての体(ケガしないように)
(4)弁解せず(面倒だ)
(5)放浪の夢(廃墟願望)
(6)議論せず(時間の無駄)
(7)時の流れに身をゆだねて(チャランポラン)
(8)いらだって生きる(悟らない)
(9)孤立を恐れず(自分本位の意地)
(10)スキのある服装(ヨレヨレ)

 の十カ条をきめた。

 ジゴロのホストクラブのあんちゃんみたいな高級服は着るな。北国の網元がぞろっとはおっているような着物がサマになる。村長が着ている着物の下からラクダのモモヒキが見えているほうがいい。

 どっちみちポンコツなんだから、せめて生きているうちは老人の獣道をいこうじゃないか。

 サラリーマン時代に自分を抑えてきた反動で、フリーになると、怖いもの知らずになった。そんなとき、業界の先輩が「夜の電車に乗ってはいけない」と忠告してくれた。

 酔客にからまれるからである。ひどくからまれれば、ケンカになる。酔客を蹴ると新聞記事となり、恥をかく。

書影『爺の流儀』(ワニブックス【PLUS】新書)『爺の流儀』(ワニブックス【PLUS】新書)嵐山光三郎 著

 で、夜はタクシーに乗り、世間が見えなくなる。それが15年つづいた。

 いまは夜の電車に乗るようになった。テレビに出ないから、メンがわれずにすむ。ただし、デパ地下食品売り場をドスドス歩くおばさんは怖いので近づかない。

 新型コロナウイルスが流行していた間は、マスクして帽子をかぶって覆面じじいだ。電車に乗ろうとしたら自動改札機が故障して、スイカを使わずに通りぬけた。しめしめ、ただ乗りできるぞと思って飯田橋で降りようとすると、改札口から出られなくなった。いつのまにか復旧していて、出口がパタンと閉まって動かない。無人の改札口にスイカされた。漢字で誰何と書く。

 警察官に「なにをしておるか」とスイカされた気分。それがスイカの語源か、とつまらぬことに気がついた。