ニューロダイバーシティへの関心は
職場のメンタルヘルス問題の答えにもなり得る
ニューロダイバーシティへの注目が高まる背景には大きく2つの要因がある。言うまでもなく、情報化社会において高度に専門分化が進む中で、専門性を突き詰められる人材へのニーズが高まっていること。そして、もうひとつは、効率を追求した従来の働き方への限界だ。
深刻化するメンタルヘルスの問題は、これまでの働き方が多くの人にとってフィットしていないことを示している。「発達障害は社会モデルで考えるべきだ」と木村氏は言う。つまり、障害は個人の責任に帰せられる問題ではなく、環境との摩擦によって生じる困難であり、環境を整備することで、誰もが能力を発揮できる可能性がある。
こうした中、2024年夏に日本総合研究所は「ニューロダイバーシティマネジメント研究会」を設立した。メンバーとしてアイディルートコンサルティング、SCSK、セブン銀行、TIS、電通総研、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループが参画し、発達障害のある人の能力を引き出し、高度・先端IT領域での活躍機会の創出を目指している。
参画企業からは、「現場でも人材不足に悩んでおり、障害の有無に関係なく、能力を発揮できる人材がほしい」という声も上がっている。ただし、従来の採用手法では、グループワークやコミュニケーション重視の選考によって、潜在的な能力を持つ人材がこぼれ落ちている可能性がある。
木村氏は「どの部門に配属されてもそれなりに仕事がこなせるようなジェネラリスト的な人材獲得が優先されやすい。しかし、専門性が求められる現代において、それは企業の損失となる。特定の分野で卓越した能力を発揮できる人材を見出すためには、採用の仕組みから見直す必要もある」とも言う。かたや、障害者雇用枠内での採用は、軽作業や事務作業を中心としたものであり、高度IT人材として採用する道筋がないという側面もある。
研究会では参画企業の実務をモデルに、発達障害のある人が能力を発揮できる業務の特定・設計や、マネジメント手法の検討など、実践的な取り組みを進めている。「身近な成功事例を積み重ねることで、より多くの企業がニューロダイバーシティに取り組むきっかけになれば」と木村氏。将来的には、活躍できる業務や産業領域、キャリアパスの選択肢を拡大し、それぞれが持つ能力が存分に発揮できる社会の実現を目指す。
ニューロダイバーシティは特定の人だけの問題ではない。その活用は、「障害がある人を優遇して雇用する」ものではなく、「誰もが持てる能力を最大限に発揮して成果を出し、企業の成果に寄与する」ためのものだと木村氏は改めて強調する。誰にでも脳神経の発達における特性があり、それぞれに合ったパフォーマンスの上げ方がある。画一的な働き方を見直し、多様な特性を活かせる職場づくりは、すべての人にとってプラスになる可能性を秘めている。
次回からは、実際にニューロダイバーシティを取り入れ、高度IT人材を採用しようとしている企業の例をお伝えする。