トップダウンとボトムアップ
両輪で進める

 ニューロダイバーシティ推進に関してはそもそも受け入れの素地があった。というのも、電通総研グループでは約30年にわたって障害者雇用に取り組んでおり、そのノウハウが社内に蓄積されていたのだ。障害者雇用の特例子会社「電通総研ブライト」とは別に、本社にワークサポート部という障害者に特化した部署があり、障害者が活躍する専門部署となっている。

 コーポレート本部ワークサポート部部長の山中昌子氏によると、30年前は法定雇用率を満たすことが第一の目的で、人事部の一角としてのスモールスタートだったが、雇用する障害者の数が増加するにつれて独立した部署として発展。より手厚い支援体制を整えていったと言う。

 同部署には発達特性を持つ社員もおり、社内事務作業をはじめ、社内向けポータルサイトやウェブサイトの作成・デザイン、動画編集などの業務にも携わっている。そこでの手応えを基に、より専門性の高い現場での活躍を目指す機運があった。

 直接的なきっかけは日本総研からの研究会参加の誘いだった。「研究会が起爆剤となって、本格的な取り組みへ発展していった」(佐藤氏)。社内では部門トップが集まる会議で取り組みを説明し、同意を得た。すでにある程度社内でダイバーシティについての考え方が普及していることもあり、比較的スムーズに理解が得られたという。

 次に部門を横断する会議で声を掛けたところ、サイバーセキュリティ推進部とIT推進を行う事業開発室が参画の手を挙げた。結局、現場との話し合いから、最初のモデル業務として浮上したのが、コーポレート本部サイバーセキュリティ推進部部長の富田聡氏の部署で行われている「脆弱性診断」の仕事だった。

 これは、ITシステムのセキュリティ上の弱点を探す業務だ。発達特性のなかでも特に自閉スペクトラム症(ASD)との親和性が高いと考えられている。ASDの人に見られる飽くなき探究心や正確性を追究する傾向が向いていると富田氏。

 そこで、サイバーセキュリティ推進部では、ニューロダイバーシティマネジメント研究会で得た知見を踏まえ、細かな業務分析を行い、業務工程を検査の準備、検査テスト、結果分析、報告書作成、報告会などに分け、タスクを細分化したうえで、それぞれのタスクがASDの特性とマッチするかを評価。特にひとりで完結できる作業が特性のある人に馴染みやすいと考え、コミュニケーションを取らなければならない作業と区別していった。

 富田氏は「部署として、支援ではなく体制を強化したいという戦略的意図があった」という。IT人材――特にセキュリティ人材の確保は業界共通の課題であり、発達特性を活かした採用は一つの解決策になり得る。

 同社の事業はクライアントからの要求が複雑化・高度化するものが多く、納期の問題や、コミュニケーションなどの制約もあるため、最初は社内の業務から始める。ただ、実務面でのゴールはクライアント向けの仕事も担ってもらうことだ。実際の採用はまだだが、25年度中にも本格化するべく準備を整えている最中だという。

 また、今回は、サイバーセキュリティ推進部から始めるが、他部署でも興味を持っている社員は多数おり、部門ごとに必要な人を採用していければと佐藤氏は語る。

「発達障害のある社員」の活躍に成功する6つのカギとは?電通総研で“1年後の定着率が9割以上”の裏側発達障害の特性のある人の採用や制度設計について話し合うメンバーたちは、それぞれ異なる部署に所属している。左奥から時計回りに佐藤数明氏、富田聡氏、高木幸雄氏、山中昌子氏 提供/電通総研