特性のある人が働きやすくなる
職場での工夫
連載の1回目、2回目に登場した日本総研の木村智行氏は、近年、AI(人工知能)の発展は、特性のある人の職場での障壁を解消し、現状では不利な立場にある人に新たな可能性を開いていると指摘する。
例えば、コミュニケーションの補助として生成AIを活用すれば、調整や交渉が苦手な人でも効果的に業務を進められる可能性がある。また、AIを通じて指示を明確化したり、業務の優先順位付けを支援したりすることで、マルチタスクの困難さを軽減できる。一人ひとりがAIを使いこなす時代になれば、特性がある人がIT領域に限らず新たな専門職域で、働くチャンスも広がる。
また、木村氏は現場での具体的な工夫として、AIの活用以外に次の6点を挙げる。
(1)マルチタスク回避・明確な指示
指示は一つずつ、5W1Hを明確に伝える。チャットツールなどを使い、テキスト化する。
(2)業務の細分化と役割分担の最適化
高度IT領域では、調整交渉などの部分を分離し、専門性を活かせる環境を整備することが有効である。まさに前述の富田氏が、特性のある人には脆弱性診断に従事してもらうのがよいと判断したというのがその好例だろう。
(3)現場の管理職と人事部門の連携による支援体制の構築
発達障害のある人がいると現場の管理職の負担が大きくなるという不安をいかに解消するかが重要だと木村氏は説く。人事部では、直属の上司に言えないことや要求を伝えるためのルートをつくっておき、第三者が要求を咀嚼して現場の管理職に伝えることで、軋轢を避けるといった工夫が考えられる。
上司、部下のコミュニケーションの円滑化という意味では、業務記録ノートの活用があると木村氏。ある企業では交換日記のようなノートを備え、予定と実施内容を毎日記録して上司と部下が確認しているという。
これによって業務の進捗状況や課題を細かく可視化し、発達障害のある人に対して適切なサポートができているのだ。また、ノートがあることで、前述した、指示の明確化、マルチタスクの回避、業務の細分化や役割分担の最適化、公平な評価も併せて促されることになる。
(4)柔軟な働き方の導入
フルリモートワークの採用や、感覚過敏への配慮として時差出勤を認めるなどの対応が効果的である。特に長時間の通勤で睡眠時間が短くなり、パフォーマンスが低下する従業員はフルリモートワークの導入で安定した高いパフォーマンスを実現できている事例もある(次回の連載第4回で詳しく紹介する)。
(5)就労支援施設との連携
就労支援施設では、最大2年間のトレーニング期間に、当事者が施設のサポーターと共に自己理解を深める。発達特性が強く出たときの対処法や企業に伝えるべき配慮事項を整理し、能力を発揮しやすい業務を想定したり、自分ができることのポートフォリオを作ったりしている。企業がこの情報を活用することで、より適切なマッチングが可能になる。
(6)面接重視の採用方法を見直し
面接だけではなく、インターンなど実践的な評価方法を採り入れる。電通総研でも、インターンで業務を体験してもらい定着を図っている。