間違いだらけのDX人材不足、ハイクラス社員は実は隣にいる?日本企業が気づいていない「発達特性」という武器バイデン前政権が進めていた政策を覆す内容の大統領令に署名した米ドナルド・トランプ大統領。雇用や労働問題に関する内容として「多様性、平等性、包摂性(DEI)」を推進する方針の廃止も含まれている Photo:Anna Moneymaker/gettyimages

IT・DX人材の不足が指摘される中、多様な特性を持つ人材の活用が企業の競争力を左右する時代になりつつある。海外ではすでに10年以上前から、発達特性のある人を生かした人材戦略が進められ、実績を上げてきた。一方、日本ではまだその取り組みは限定的だが、2024年夏に日本総合研究所の木村智行氏らが「ニューロダイバーシティマネジメント研究会」を立ち上げ、企業との協働を本格的に始めた。
本連載では木村氏らによるプロジェクトのPDCAの試みをベースに、企業の実践的な取り組みや課題を全5回にわたって掘り下げる。第2回は、プロジェクトを設立のきっかけや、発達障害を考えるにあたり必要な視座を扱う。また、米トランプ大統領就任を機に、多様性の取り組みが後退している米国の状況を踏まえ、この先日本企業がどのように考えるべきかについても考察する。(取材・構成/ライター 奥田由意、ダイヤモンド・ライフ編集部)

発達障害の特性を生かした採用
海外では10年前から実績多数

 前回、ニューロダイバーシティの活用や、2024年秋に始まった日本総研の木村智行氏が企業と協働する発達特性を高度・先端IT領域で生かす「ニューロダイバーシティマネジメント研究会」について取り上げた。日本では日揮パラレルテクノロジーズなどのわずかな先進例を数えるのみで(連載4、5回で取り上げる予定)、まだ例が少ない。

 一方、海外では発達特性のある人の雇用の取り組みが約10年前から本格的に始まっており、着実な成果を上げている。

 例えば、いち早くニューロダイバーシティ活用に取り組んだ例として、ソフトウェア開発会社のドイツSAPが挙げられる。13年に「Autism at Work」というプログラムを開始し、16カ国で240名以上が採用されている。

 オーストラリアの内務省では、ICT人材としての能力発揮を見込んで発達特性のある人材の採用を行っている。

 また、Fortune 500企業のDXC Technology(米)は14年からニューロダイバーシティ採用プログラムを展開し、350名以上の雇用機会を創出した。同社では、プログラムに参加したチームの生産性が30〜40%向上したという実績を残している。

 金融持ち株会社のJPモルガン・チェース(米)は、自閉症スペクトラムの人を対象として15年に4名のソフトウェアテスターの採用から始めて、現在では250名規模まで採用を拡大しており、特性のない人よりも48%仕事が早く、生産性も92%向上したという。

 フィンテックなど金融業界のIT畑での例は他にも複数あり、たとえば、イギリスの銀行HSBCのアジア・太平洋地域における最高情報セキュリティ責任者(CISO)はADHD当事者であり、その経験を生かしてニューロダイバーシティ推進を行っている。バンク・オブ・アメリカ(米)でも、サイバーセキュリティの専門家が自身の発達障害を公表したことをきっかけに、エンジニア採用を実現している。

 クリエイティブ領域では、自閉症スペクトラム(ASD)を持つ人々を対象としたデジタルアート、アニメーション、視覚効果(VFX)などのトレーニングを提供し、業界での就職を支援する非営利団体Exceptional Minds(米)がある。Exceptional Mindsでは、1400名以上のクリエイターを輩出し、オスカー受賞作品にも参加。マーベル作品への参加実績を持ち、ディズニーでの採用事例も生まれている。