断酒は寿命を終える以外
ゴールがない闘い
断酒を継続するにあたって必要なのは自己肯定感である。
この努力が決して無駄でないということを自分にいい聞かせ、モチベーションを維持しなければならない。
始めた当初は飲酒欲求をまぎらわせるため、ありとあらゆる手段を模索した。3カ月を過ぎて安定期にさしかかっても、ちょっとした心の隙を突いて悪魔のささやきが聞こえてくる。いつなんどき、ひょんなことがきっかけで《スリップ》(編集部注/アルコール依存症の人が断酒を続けていた最中に再びアルコールを摂取してしまうこと)しないともかぎらない。
壮絶な努力である。
カレンダーをめくっては、ここまで呑まなかったぞと自分にいい聞かせる。ただし、そこでいったんピリオドを打てば安心して再飲酒してしまうため、このまま、また次が始まるのだと断酒期間を延ばすべく努力を続ける。
そうして半年、1年と月日が経つにつれ、心と体の負担が軽くなってきて、やればできるという自信がつく。それが強い自己肯定感につながる。何よりも健全で健康な心と体を取り戻したという歓びが、前向きな人生を作り出すのである。
何度も悪夢に見た、「ついに呑んでしまった!」という絶望と強迫観念、あの後ろめたさから全解放されるのは本当に気分がいい。
断酒はいわば時間との闘いでもある。
しかも寿命を終える以外にゴールのない、果てしない戦い。
そんな中、一歩一歩と階段を上るように努力の段階を経ていく。まるで空手などの武道で昇級し、昇段していく過程のように、高位に行けば行くほど、その達成感は大きく、歓びもひとしおとなる。
酒をやめたのではなく、酒という軛(くびき)から解放されたのだと、自分にいい聞かせる。全身の細胞が入れ替わり、体が慣れていくにつれ、それはだんだんと実感をともなってきた。
断酒後も
酒文化は愛している
酒は文化の一端を担うものだった。
かつて酒場は社交の場であるとともに学びの場でもあった。私が“ガード下大学”と呼んだ懐かしい〈木菟(みみずく)〉(編集部注/筆者がかつて通っていた東京・阿佐ヶ谷の居酒屋)での、あの泣き笑いの日々は、決して自分にとって無駄な時間ではなかったはずだ。