なお、新NISAで運用しているリスク性資産の比率を下げようとすると、スイッチング(乗り換え)ができないことがネックとなります。一度売却すると、翌年まで買い戻せないのです。

 仮に翌年まで再投資を待てたとしても、年間の投資上限は360万円ですから、一度に買い戻すのが難しいかもしれません。いずれにしても、かなり柔軟性がないといえるでしょう。

 わかりやすいように具体例で考えてみます。たとえば1800万円の投資元本が、65歳の時点で運用収益も含めて3000万円に増えていたとします。その3000万円をすべてリスクの小さいバランス型投資信託に切り替えようと考えた場合、どんなに頑張っても1800万円分しか買い戻せません。

 また、年間投資上限額が360万円という制約があるので、1800万円分を買い戻すのにも5年かかることになります。

 一方で、翌年買い戻せる360万円分だけ売却しようとすると、600万円分売却しなければなりません。この具体例では、残高3000万円のうち元本は1800万円で、利益は1200万円ですから、この口座の資産を売却すると、その金額の6割が元本で、4割が利益となります。すなわち、360万円の投資枠をあけるためには、“元本で360万円分”、利益分を含めて600万円を売却する必要があるからです。

配偶者が死亡した時も不便
現役世代のものと心得よ

 新NISAのもう1つの課題は、配偶者間の資産の共有の難しさにあります。

 現役時代、個人として資産形成の口座を開設でき、夫婦世帯なら2つの非課税口座を利用できることは大きなメリットです。しかし配偶者のどちらかが死亡した場合には、現状では、亡くなった人の非課税口座の資産は課税口座に移管されてしまいます。

 たとえば夫が先に亡くなった場合、せっかく夫が非課税口座で作り上げてきた資産が、死亡とともに課税口座に移されれば、非課税のメリットを十分に享受できず、残された妻のその後の生活の支えが弱くなりかねません。

 英国のNISAでは、この10年ほどの間に口座保有者の高齢化に対応する制度改正をいくつか行ってきました。その中で「相続NISA」という制度を導入しています。

 これは、亡くなった配偶者が保有していた資産額と同額を、残された配偶者の翌年の非課税投資上限額に1年だけ上乗せする制度です。このような制度が日本でも導入されるのが望ましいでしょう。

 新NISAには、退職後の方々の利用も念頭に置き、さらなる改正を続けてほしいものです。