全国における強盗事件の
驚きの発生件数
どの支店であろうと、私は犯人との対応役を任される。マニュアル通りにうまくやれるのか、不安しかない。最も嫌な役回りだが、窓口の責任者なので仕方がない。気は進まないが、その覚悟はできている。
興奮している犯人をなだめ、時間をできるだけ稼げと言われても、マニュアル通りに上手くいくもんじゃない。最近では日本語が分からない強盗も多いらしい。いざとなったらドラマに出てくる老練なベテラン刑事のように、説得とかしなくてはいけないのか。
「目黒さん、こちらの支店ですが、気になることがありましてー。声かけがちょっと足りないですねー」
今月も巡回にやって来た。警察OBで組織している防犯協会である。偶然だとは思うが、忙しい時に限ってアポなしで来るので、少々邪険に接してしまう。
「いいですかー。犯人はですねー、必ず下見に来ていますー。その時に目を見て挨拶してくる支店はー、いわゆるガードが固いと思われるんですねー。こちら、それが足りないですー」
来店客が入店する際、私たちは「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と声をかける。しかし、ただ声を出しているだけで、客の目を見ておらず、これでは抑止につながっていないのだそうだ。
これは本当の話。下見で防犯カメラの場所や向きを覚え、死角を探すと聞いたことがある。だから銀行の支店では、写真撮影をお断りしているのだ。
もっとも私の勤務する銀行では、受付自体が関所のように機能している。キャッシュカードを受付機に挿入してもらい、個人属性を手続き前に把握することで、セールスの狙いをつけているのだ。
これが防犯上も意外と役に立っている。用もないのに店内をウロウロしたり、椅子に座って物色しにくくなったのだ。最近ではほとんどの手続きがATMやインターネットバンキングでできてしまうため、窓口の来店客も減少傾向であり、ちょっとでも不審な動きをしていると余計に目立つようになった。
防犯協会の担当者が持参するリーフレットを読むと、前月に発生した強盗の手口などが解説してあり、非常に参考になる。預金担当課の課長になってリーフレットに目を通すようになり、そこで初めて知ったのだが、強盗事件は大なり小なり全国では毎月数件発生しているのだそうだ。被害者が出ない限り、ニュースで報じられていないだけのことである。