銀行強盗のほとんどは失敗
それでも事件がなくならないワケ

 実際、銀行の支店に多額の現金は置いていない。ATMにはある程度の紙幣は入ってはいるが、それを要求されても時間がかかり、準備が整う頃には警察官が駆けつけてしまうだろう。

 そんなリスクを犯してまで、銀行を強盗することに意味はあるのだろうか。3億円強盗事件なるものが起きたのは、私が入行するよりもさらに昔のことだ。今や金庫の現金を全部かき集めても、そんな大金には及ばない。

 現金取引が極端に減っているからだ。マネーロンダリング防止として、多額の現金での取引を厳しく取り扱うケースが増え、資金移動の手段は振り込みへと移行。現金を準備する必要がなくなってきている。

 また、1万円札で1億円となると約10kgもあり、持ち運ぶのも実は一苦労。持って逃げるなど困難だろう。

「銀行強盗って成功するんですかね?割に合わないような気がしますけど…」

「ほとんどが捕まってますよー。街中防犯カメラだらけで、逃げ通せませんよー」

「じゃあ、なんで強盗は無くならないんですか?」

「大金を盗もうとするヤツは、今ではほとんどいないでしょうねー。最近、外、寒いじゃないですかー。こういう季節になると、ボチボチ増えてくるんですよー」

「は?」

「捕まったらー、留置場行きなんですよー。冷暖房完備で3食付きじゃないですかー」

 やたら語尾を伸ばす話し方が気に入らなかったし、話す内容もいい気分にはなれなかった。

「大体ですよー。爺さんがカッターナイフで『金出せ』って言ってもねー」

 防犯協会の担当者は、ホームレスの方々を中傷するような話ばかり。その話しぶりはさらに嫌悪感があった。この辺りを書き始めると倍の量になってしまうので、別の機会に記そうと思う。

 強盗は犯罪に間違いない。ただ、そこに至るまでの事情や背景があるだろう。銀行強盗に関心を持つようにと、話を盛っているのかも知れないが、それなら他にも方法があるような気がする。彼の話を聞き、私は嫌悪感を通り越して無性に切なくなった。

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

「あ、そろそろお時間ですので失礼しますねー。みなとみらい管轄の署長、私の部下だったんですよー。『なんかあったら御行の相談によく乗ってやれ』って、私からよく言っておきますねー」

 アポもなく一方的にまくし立て、嵐が過ぎ去るように帰っていく。生理的に受け付けないからか、ご立派な指摘をいただいたとしてもいちいち腹が立つ。どの世界にもこういうタイプの人間はいるものだ。OBにもなって現役の頃の人脈をひけらかすのは、銀行では「あるある話」だが、警察も案外似たもの同士かも知れない。

 銀行員になり、四半世紀が過ぎた。悲喜こもごも、さまざまあった。今日も私はこの銀行と警察OBに感謝しながら、業務の遂行にいそしんでいる。

(現役行員 目黒冬弥)