ベテラン銀行員たちが
得意とする2つの技能
「おーい、この伝票、加算機入れてくれ」
銀行員が得意とする数少ない技能に、加算機と札勘定がある。昔は、どの支店に配属されようとも習得すべき技能だった。
加算機とは、卓上に置いて使用する巨大な電卓のことだ。テンキーと四則計算のボタンがあり、「ジャーナル」と呼ばれるレシート用紙に、計算過程と結果が印字される。このレシート用紙を伝票の束にクリップなどで留め、入力間違いがないかチェックする。
主に後方にいる事務担当が使い、「テラー」と呼ばれる窓口担当者が、受付した伝票などを計算する。ベテランにもなると、ものすごい勢いと速さでテンキーを叩く。バリバリバリバリと音が鳴り響く。
札勘定は名前の通り、たくさんの紙幣を短時間で正確に数える技のことを言う。「サツカン」と略す銀行もあると聞く。ベテランの銀行員には、札勘定を得意とする者が多い。それだけ、人前で紙幣を数える機会が多かったからだ。
しかし、最も脂が乗り、馬車馬のように働いてもらいたい30代から40代の行員は、慢性的な人手不足により他業態からのキャリア採用で穴埋めしているため、札勘定をできない者も多い。もはやメガバンク銀行員にとっては、必ずしも必須とは言えないスキルになりつつある。銀行が早期退職を促しすぎたという致命的なミスジャッジが、人手不足になった理由のひとつだった。この辺りは拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』に記してある。
私の場合、バブル世代の大量採用時代で500人以上も同期入行がいたので、新入行員研修は日程を前半と後半に分け編成していた。いまだに入行同期で出身行も同じ者に遭遇すると「新入行員研修は前半と後半のどちらでしたか?」という質問になることが多い。かたや支店長、かたやヒラ行員のままということもある。入行から30年以上の間で、2人の運命を分けたものは何だったのだろうか。まさに悲喜こもごもである。