エーザイ3代目創業家社長が長男にバトンタッチするための「絶対条件」Photo:医薬経済社
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 日本製鉄による買収計画が日米間の政治問題化したことで、民放までニュースで紹介する展開になった米鉄鋼大手のUSスチール。その礎を築いたアンドリュー・カーネギーは稀代の篤志家であると同時に、多くのエピソードを残した名経営者であった。日頃から「責任は自分が取るから君たちは存分仕事に当たってくれ」を口癖として、周囲のスペシャリストに権限を積極的に委譲した。本人はそれぞれの専門力を統合し、重層化することに徹して世界一の製鉄会社をつくり上げることに成功した。

 こうした自身の経営手法には大きな満足と揺るぎない手応えを感じていたのだろう。墓碑には遺言に基づいて、「ここに、自分より賢い人々を周囲に集める術を知っていたひとりの人間が横たわる」と刻まれているそうだ。昨今、やたらと持て囃されているワンマンと強権によるリーダーシップ経営が、ひとときはともかく、サステナブル性に欠くとも指摘されるなか、この「鉄鋼王」が実践した経営手法は、より高い普遍性を持つものとして再評価されて然るべきではないかと考える。

 翻って日本の製薬業界だが、後世に語り継がれることになりそうな現役のトップは、悪評プンプンな筋を含めても五指にも満たなそうだ。多くは株主や投資家から経営を期間限定で委ねられたサラリーマン社長であり、さりとて、創業家一族が君臨する企業はその多くが、ドメスティックでニッチな領域に事業を絞っても「成長」から見放されて久しい。良い意味での例外は、エーザイを率いる内藤晴夫社長CEOくらいであろうか。