輸出頼みから内需拡大に舵を切った中国

 3月5日に開幕した全人代において李強首相は経済を振り返り、2024年の目標(5%前後の経済成長率)を達成した要因として、貿易(純輸出)が増加し世界市場で中国企業のシェアが伸びたからと強調した。

 一方で、足元の課題にも言及。米トランプ政権の対中制裁や関税引き上げを念頭に、多国間の貿易体制が困難になりつつあること、中国国内で個人消費は落ち込んでおり、景気回復の足取りは不安定との見解を示した。国民が就職難や収入の減少に直面していることにも触れた。

 今後は、輸出の増加による外需頼みから、個人消費を中心に内需拡大を重視する方針に転換する。李首相は内需拡大の実現のため、対GDP比の財政赤字を前年から1ポイント引き上げて4%前後にするとした。財政赤字は1兆6000億元増加の、5兆6600億元(113兆円)にする。

中国経済に漂う「不吉な既視感」…物足りない景気刺激策が拍車をかける、中国版「失われた30年」の現実味中国・天津の高層マンション Photo:PIXTA

 また、期間10年超の超長期特別国債の発行を3000億元増やし、1兆3000億元(約26兆円)発行する。さらに、特別国債を5000億元(約10兆円)発行して、国有大手銀行に公的資金を注入する。地方政府の債券発行枠も拡大し、主にマンション在庫の買い取り件数を増やす。

 政治活動報告におけるキーワードの登場数を見ると、「改革」「市場」「消費」が昨年に比べて増加している。3月6日には、中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁が、適切な金融緩和を実施し内需の下支えに取り組む姿勢を示した。

 一方、米国ではスコット・ベッセント財務長官が、「中国は国家政策として過剰供給を増やし、安価な製品を海外に輸出している」と非難した。ベッセント氏は、中国の経済運営は自由資本主義に基づく米国とは相いれないもので、対中関税政策は中国に対抗するため重要な手段との認識だ。