不動産バブルの後処理が少しずつ進む可能性
今回の国有大手行への公的資金注入は、中国政府が不動産バブルの後始末を重視し始めたことを示している。公的資金注入の狙いは、これまでの金融行政指針と併せて考える必要があるだろう。
振り返れば23年11月、中国政府は国内の銀行に、民間企業向けの融資目標を設定するよう指示した。従来、中国では相対的に信用力が高い国有、国営、政府系企業向け融資を優先する銀行が多かったとみられる。バブル崩壊により銀行の利ザヤは低下し、民間企業への融資はいっそう伸び悩んだ。
そうした事態の打開を目指し、政府は融資の審査を担当する銀行員の免責条項を設け、中小企業向け融資に消極的にならないようにした。銀行の支店、行員の評価項目として、民間企業向けのビジネス実績を重視する方針も出した。
それでも昨年、月次発表の新規の人民元融資は伸び悩んだ。今なお、住宅価格も下落基調を脱していない。こうした事態に伴い、デフレ圧力は追加的に高まっている。つまり中国は、1990年代以降のわが国が経験した厳しい景気をたどる可能性が高いのだ。
今回、中国政府は10兆円の公的資金を国有大手銀行に注入し、不良債権処理に備える考えを示した。それは、不動産バブルの後始末を促す効果がある。過去のピーク時、中国の不動産関連需要はGDPの29%程度を占めたとの試算もあるが、バブル崩壊により不動産投資で経済を成長させることは難しくなった。
それに加えて、トランプ政権の対中関税だけでなく、カナダ、欧州連合、アセアン新興国でも、中国の低価格製品の輸出に対する警戒が強くなっている。中国は輸出に依存して成長するのが難しくなりつつある。
内需主導で中国の景気が回復するためには、中小企業の資金繰りを支援し、労働市場を安定化させることも必要だ。そこで中国政府は、まず国有大手行への公的資金注入を行い、民間向けの新規融資を伸ばし、民間向けの信用創造を促進する方針だ。