公的資金注入で景気は本格的に上向くか

 今後は、国有大手行への公的資金注入がどれほどの効果を発揮するかを注視したい。実際に、民間企業向け融資が増えれば、労働市場は安定化するだろう。そうなれば、消費者の節約志向を和らげ、デフレ圧力を低下させることが期待できる。

 全人代では、量子計算技術やAI、次世代の高速通信システム(6G)、半導体などの先端分野を対象に産業補助金を拡充し、人材教育を強化する方針を示した。公的資金注入で銀行のリスク許容度が回復し、成長期待の高い分野に資金が再配分されると景気回復への期は高まる。

 問題は、政府がいわゆる「灰色のサイ」(高い確率で大問題を引き起こすにもかかわらず軽視されがちな問題)である、債務問題を解決できるか否かだ。公式統計では23年末の不良債権残高は約3兆元(約60兆円)だった。中国の銀行では、不良債権への認定を先延ばしするケースが増えているようだ。近年は政府の指導の下、不良債権を証券化し販売する金融機関も増えているという。

 ただ、不良債権の実態は統計以上に大きいとみられる。不動産分野だけで、不良債権残高は1兆ドル(約150兆円)を超えるとの試算もある。24年に中国政府は10兆元(約200兆円)の「隠れ債務」を、地方政府の管理下に置いた。しかし、IMF(国際通貨基金)は、「中国の隠れ債務は60兆元(約1200兆円)に達する」と推計している。今回の公的資金注入は内需拡大に必要な方策の一つであることは間違いないが、その規模は十分とは言い難い。

 これまでの教訓として、大規模なバブルが崩壊すると、不良債権処理に加えて構造改革の重要性が高まることが挙げられる。規制緩和を推進し、成長が期待できる産業を育成することが、本格的な景気回復に欠かせない。わが国経済は不良債権処理と構造改革の両方が遅れ、「失われた30年」と呼ばれる長期停滞に陥った。

 全人代で政府は、先端分野への支援拡充方針は示したが、人々の自由を容認する姿勢は示さなかった。国有大手行への公的資金注入が効果を発揮し、中国の景気が持ち直しに向かうか否かは、構造改革に取り組む姿勢が重要なカギを握っている。