【ケース14】某都市銀行  

 授業員がある会社への融資に問題があると考え、ホストコンピューターから資料をプリントアウトして議員秘書に渡したため、話が公になりました。銀行も内部調査せざるをえなくなり、関係者を処分しました。その後、告発者の身元捜しが始まり、告発者は情報漏洩を咎められ、懲戒解雇となりました。

『半沢直樹』のようにはいかない
でも、誹謗中傷されてはならない

 ここまで、国内で起きた14のケースを挙げました。告発者本人が直接不利益を被ったものがほとんどです。ただし相討ちというか、告発そのものは証明されたものの、本人が社内規定違反で問答無用の解雇を受けたケースもあります。

 日本の場合、テレビ番組(原作は小説です)の『半沢直樹』のように、不正を暴く痛快な逆転サラリーマン劇はそう多くはありません。中にはトナミ運輸のように、告発者が在職時の22年間、ずっと閑職に置かれ、退職後の訴訟でようやく勝ったケースもあります。

 日本の組織(特にオーナー系企業や病院など閉鎖的な体制の組織)には、内部告発そのものを許せないという心情を持つ会社がまだまだ目立ちます。また、金沢大学医学部のように、通報先の官庁が告発者の情報を相手に漏らすなど言語道断です。しかし、上記のようなケースは氷山の一角にすぎません。

 しかし、わずかですが、マスコミが介入することによって、少なくとも告発の目的は達せられたケースもあることに、少し安心しました。現在の制度では、公益通報にマスコミも含まれます。そして兵庫県の騒動で、マスコミもこうした内部告発の援護を重要な仕事だと認識したと思います。

 私がこのテーマに対してセンシティブになるのは、私も会社員時代、「内部通報者」といえば、内部通報者だったからです。会社の常務という立場にありながら、社長の社内不正を追及したのです。この時期は、会社としては「文春砲」という言葉が流行り始めたころ。まさに地雷源の上に住んでいる心地でした。

 社長は長年の友人であり、私しか阻止できる人間はいないので、本当に悩みました。ただ、決めていたのは、自分も辞める覚悟で進言し続けることでした。決着がつく頃には10kg近く体重は減り、睡眠不足に陥りました。

 私は自らの経験から、公益通報者を大事にする社会になってほしいと思います。ここで紹介したケースも兵庫県のケースも、深い懊悩の中で告発に至りながら、正しいことをしている人間が誹謗中傷されていたであろうと思うと、書かざるをえませんでした。

 失意のまま、自殺を選び、遺族まで誹謗中傷にさらされる。日本はそんな国であってはなりません。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集写真長 木俣正剛)