【教養としての世界史】「1枚の地図」で学ぶ“ユーラシアの繁栄と破滅”
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

世界を変えた「3本の道」とは?
ユーラシア各地で世界帝国が成立すると、あることが生じます。
世界帝国は、いずれも広域支配により地域一帯の治安を安定させ、その恩恵を一番受けるのが商人です。商人は広大な帝国の各地を渡り歩き、帝国が整備した道路網が商業活動をより刺激します。また、帝国の統治者も商人を熱心に保護し、商業活動の活性化を促します。
商人たちの活動は国内だけにとどまりません。より遠隔地に商品や取引先を求め、商人たちはユーラシア大陸そのものを商業活動の場とします。ここでも国際貿易が展開されるのです。
とりわけ、地中海世界と東アジア世界をつなぐ東西交易路が活性化し、これは「3本の道」と通称されます。「3本の道」とは、①高緯度の草原地帯にあたる「ステップロード(草原の道)」、②中緯度の砂漠ないしオアシス地帯にあたる「シルクロード(オアシスの道または絹の道)」、③赤道近辺の海洋を利用した「マリンロード(海の道)」を指します。下図(図14)を見てください。

ここでは③の「マリンロード」に注目してみましょう。マリンロードの中心となるのはインド洋であり、ここでは夏は大陸に、冬は海洋にというように、季節によって風向きが一定であるモンスーン(季節風)が吹きます。これを利用することで、商人たちは効率の良い船旅を続けられるのです。また、インド洋の中継地点にあたるのが南インドと東南アジアであり、この地では都市国家ではなく、港のネットワークが国家として機能する「港市国家」が繁栄します。いずれも中継貿易が盛んに行われました。
しかし、ユーラシア各地の強い結びつきは、同時に相互が経済的に依存する度合いを強めます。「前1200年の破局」と同様の破綻が、やはり3世紀にも生じるのです。
震源は後漢で生じた黄巾の乱(184)という農民たちの反乱にあり、これにより漢の統一が失われ三国時代(220~280)に突入すると、漢との貿易が振るわなくなったローマでも国威がにわかに衰え、軍人皇帝や外敵の侵攻に悩まされる「3世紀の危機」を迎えます。
また、中継貿易で繁栄したインドのクシャーナ朝、サータヴァーハナ朝といった国家は、いずれも3世紀に衰退ないし崩壊するのです(もちろん国際貿易の不振だけに原因を帰すことが適切とは限りません)。帝国と国際商業の繁栄は、一方では相互依存が強まることで国家の衰亡にも結びつくようになります。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の一部抜粋・編集を行ったものです)