
トランプ関税の主な標的となっているメキシコ経済。2024年10~12月期はマイナス成長になるなどすでに減速傾向にある。発動と猶予を繰り返すトランプ関税だが、本格的に発動となれば、その影響は極めて大きい。そうなればペソ安が再進行する公算が大きい。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
発令を示しながら一転猶予された
対メキシコのトランプ関税
メキシコ経済は、財輸出の約8割、GDP(国内総生産)の約4%に相当する移民送金の大宗を米国からの流入が占めるなど、米国経済に対する依存度が極めて高い構造を有する。
こうしたなか、自身を「タリフマン(関税男)』と称する米国のトランプ大統領は、先月の就任前から公約実現を目的に外交戦略の手段として関税賦課を材料にディール(取引)を持ち掛ける姿勢を示してきた。
大統領就任直後には、米国内で多数の中毒患者が出るなど社会問題となっている合成麻薬(フェンタニル)の原材料などが中国からカナダやメキシコを経由して米国に流入していることを国家の緊急事態と認定した。
その上で、トランプ氏は国家緊急経済権限法(IEEPA)に基づきカナダとメキシコに25%、中国に10%の追加関税を課す旨の大統領令に署名し、2月4日付で発令する方針を示した。
しかし、その後にトランプ氏とメキシコのシェインバウム大統領による電話会談が行われた結果、トランプ氏は関税賦課を30日間延期することで合意に至った。
電話会談では、トランプ氏の懸念に対応すべく、メキシコ政府がフェンタニルの米国への流入阻止に向けて対応を強化することを明らかにするなど、いわゆる「ディール」がなされたもようである。
ただし、電話会談で示された内容は、すでに示された内容の焼き増しであった。昨年の憲法改正により国境警備隊はすでに大統領直轄組織に再編されているほか、シェインバウム政権も「トランプ2.0」を念頭に中国からの輸入抑制への取り組みを強化し、その後も新たな経済計画を公表していた。
次ページでは、現下のメキシコ経済の状況を分析するとともに、トランプ関税の影響、先行きを検証する。