メキシコ中銀はインフレ見通し上方修正でも「利下げ」、政策迷走でペソ相場の不透明感強まるPhoto:PIXTA

メキシコ経済は米国経済減速もあり、成長が鈍化している。一方、議会選挙で与党が憲法改正も可能な議席を獲得したことで財政悪化懸念が生じ、ペソ安であることもあり、インフレ率は上振れている。にもかかわらず中央銀行は利下げに踏み切った。先行きの不透明感は強まるばかりである。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)

3会合ぶりの利下げに
踏み切った中央銀行

 メキシコ中央銀行は、今月8日に開催した定例の金融政策委員会において3会合ぶりに政策金利を0.25%引き下げて10.75%とすると決定した。

 ここ数年、商品高とコロナ禍一巡による経済活動の正常化に加え、隣国である米国の景気堅調を追い風にしたFRB(米連邦準備制度理事会)による大幅利上げの影響も重なり、メキシコ中銀は物価と為替の安定を目的に累計7.25%の利上げに動いた。

 インフレ率は一昨年中旬に約23年ぶりの高水準となったが、商品高の動きが一巡したことで昨年は頭打ちに転じた。また、昨年以降の中南米諸国ではインフレ鈍化を理由に利下げにかじを切る流れが広がりを見せた。

 しかし、メキシコでは米国景気の堅調さが景気を下支えする展開が続くとともに、インフレ率も中銀目標を大きく上回る推移を見せたため、中銀は引き締め姿勢を維持する対応を続けてきた。

 結果、インフレ鈍化により実質金利(政策金利-インフレ)のプラス幅が拡大するなど投資妙味の拡大を追い風に資金流入が活発化した。そうした動きを反映して通貨ペソ相場は押し上げられ、インフレ抑制に資することが期待された。

 ただ、足元では、期待通りの物価の動きとはなっていない。次ページでは、直近の物価、景気動向を検証していく。