「いつも浅い話ばかりで、深い会話ができない」「踏み込んだ質問は避けて、当たり障りのない話ばかりしてしまう」上司や部下・同僚、取引先・お客さん、家族・友人との人間関係がうまくいかず「このままでいいのか」と自信を失ったとき、どうすればいいのでしょうか?
世界16カ国で続々刊行され、累計26万部を超えるベストセラーとなった『QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす』から「人生が変わるコミュニケーションの技術と考え方」を本記事で紹介します。

▼良い質問をするのは時間の無駄?
「あなたが質問をためらう理由は何ですか?」という私の質問に対するもう一つの興味深い回答は、介護分野のアクティビティケア担当者から寄せられた。
「私も質問をしないときがあります。
相手が忙しいのを知っているときや、相手が忙しそうな雰囲気を醸し出しているときです。
そんなとき、相手は良い会話をするための余裕がないように見えますし、質問をしても詳しくは答えてくれません。近頃は、人は何であれ簡潔に自分の考えを述べようとします。
だから、深い質問をしようとするには、まったく異なる態度が必要になります。
深い質問をすれば、過去にこだわる変わり者と見られてしまうかもしれません。
今の世の中には、問題を深く掘り下げようとする時間がありません。
あるいは、それに時間をかけようとしない人がほとんどです。
深く掘り下げるには、相当に良い質問をしなければならないのです」
私もその通りだと思う。現代人には物事を深く掘り下げて考える時間がないし、そのために時間をかけようともしない。
誰もが、できるだけ早く先に進みたいという衝動に駆られている。
私たちは、自分の考えを疑わないことで安心感を得ている。
しかも、自分の考えを疑おうとするのは、余計なことだと考えている。
ただでさえ忙しいのに、なぜそんな時間のかかることをしなければならないのか、と。
だから、疑問をもとうとしない。
しかし、良い質問は私たちを正しい方向へと導き、結果的に時間を節約してくれる。
良い質問をすることで、どれだけのミスコミュニケーションを避けられるだろう?
全員が集まり、深く物事を考え、質問をし、本質的な問題を集団で考えることで、どれだけの失敗したプロジェクトや、コラボレーションのミスマッチを回避できただろう?
実践哲学者であり、組織戦略家でもあるアリアン・ファン・ヘイニンゲンは、ソクラテス式の体系的な質問を使い、真の質問、真の問題を前面に押し出す方法について、次のように述べている。
ソクラテス式の議論では、論理的に考えることで本当の問題を明らかにしていく。お互いの話の矛盾点を指摘し、隠れた前提を見つけ出し、議論の対象にする。それは別の視点に立ち、別の決断をする機会になる。
私の経験上、参加者はこの種の議論を好意的に受け止める。なぜなら、それは思考の余地を広げてくれるからだ。
ソクラテス式の議論は、簡単でもないし、すぐに解決策が見つかるわけでもない。
好奇心をもち、共同で物事の真相を探ろうとすれば、少し時間がかかるかもしれない。それでも、十中八九、より良い、効率的な決断に到達できる。
最終的には、投じた時間は、節約した時間で報われるのだ。
思慮深い議論や対話を行うには、時間だけではなく規律も必要だ。
そして、規律は不足しがちだ。
私たちはよく、深い質問や良い会話をする習慣がないのを、時間不足のせいにする。
しかし実際には、欠けているのは規律である場合が多い。
この規律の欠如は、会話が浅いこと、良い質問ができないことの大きな原因になっている。
(本記事は『QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす』の一部を抜粋・編集したものです)