ホンハイかホンダか、日産が進むべき道は?

 今後、世界の自動車業界で電動化、自動関連ソフトウエアの開発競争は激しさを増すだろう。特に、AI(人工知能)分野の成長に伴い、自動車メーカーにとってハードウエアの重要性は低下し、先端ソフトウエアの実用化を急ぐ必要性が増すはずだ。

 そうした環境変化への方策の一つとして、垂直統合よりも、水平分業を重視する自動車関連企業が増えると予想される。例えば、IT先端企業と自動車メーカーが提携し、ソフトウエア開発体制を拡張するだろう。そしてそのための資金調達に、重要度が低下するエンジン車関連の事業を売却することも考えられる。

 その場合、非自動車分野の企業がエンジン車関連の事業や資産を買収し、SDVの受託製造ビジネスモデルが出現する展開も想定される。今後、国境や業界の垣根を越えて自動車業界の再編が激化するに伴い、わが国の自動車関連企業はかつて国内総合電機メーカーが経験したような変化に直面するかもしれない。

 そうした状況下、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)が日産との協業を模索しているという。ホンハイは日産の買収も視野に入れ、自動車製造技術の習得を急いでいるようだ。ホンハイによる出資が日産の構造改革の加速に必要だとの指摘もある。かつてカルロス・ゴーン氏時代のように、強いプレッシャーをかけることで日産の組織全体が現状を直視し、改革が進むきっかけになる可能性はある。

 ただ、ホンハイの出資が日産の長期存続につながるか否かは見通しづらい。ホンハイが買収したシャープでは急激にリストラが進んだが、持続的に収益を獲得するには至っていない。それは、買収後の株価低迷が示唆している。

 日産が相応の自主性を保ち、世界の自動車業界の再編に対応するためには、ホンダとの経営統合の協議再開はそれなりの意味があるだろう。そうした展開を念頭に、日産の取締役会はエスピノーサ氏を新社長に示したはずだ。

 エスピノーサ氏がどのように日産内部の利害を調整し、ホンダとの信頼関係を修復するのか。日産の収益力回復だけでなく、わが国の自動車産業の競争力の維持と向上に、大きな影響を与えるだろう。