どうやって部下とチームを育てればいいのか? 多くのリーダー・管理職が悩んでいます。パワハラのそしりを受けないように、そして、部下の主体性を損ねるリスクを避けるために、一方的に「指示・教示」するスタイルを避ける傾向が強まっています。そして、言葉を選び、トーンに配慮し、そっと「アドバイス」するスタイルを採用する人が増えていますが、それも思ったような効果を得られず悩んでいるのです。そんな管理職の悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏は、「どんなに丁寧なアドバイスも、部下否定にすぎない」と、その原因を指摘。そのうえで、心理学・カウンセリングの知見を踏まえながら、部下の自発的な成長を促すコミュニケーション・スキルを解説したのが、『優れたリーダーはアドバイスしない』(ダイヤモンド社)という書籍です。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、「アドバイス」することなく、部下とチームを成長へと導くマネジメント手法を紹介してまいります。

なぜ、アドバイスは効果がないのか?
アドバイスの99%は逆効果――。
私はそう考えています。なぜなら、アドバイスは柔らかい表現でくるんだ「部下否定」だからです。
一般的にアドバイスは、「そういう場合は、こうした方がいいよ」という言葉で語られます。ここに一切「否定」は見当たりません。
しかし、“表”はいかにポジティブでも、“裏”にネガティブがチラチラと透けて見えるのです。部下は、この言葉の”裏”に「暗在」するメッセージを感じ取ることでしょう。
「そういうやり方は、“ダメだよ”(否定)。だから、こうした方がいいよ」
そして、「否定」された部下がたどり着くのは、「反発」と「無気力」なのです。
この現実を、私たちは薄々勘付いているはずです。しかし、それでも私たちはアドバイスをしたくなる。それはなぜなのでしょうか?
アドバイスをすると、脳に“ご褒美”が与えられる
誰かにアドバイスをすることで、私たちは「自己効力感」を感じ、「自己肯定感」が高まります。また、「優越感」を感じることもできます。これらが、脳にとっての“ご褒美”となるのです。
「自己効力感」や「優越感」を感じると、脳内神経伝達物質で「快」の感情をもたらすドーパミンや、人とのつながりを感じるオキシトシン、心が穏やかに安定するセロトニンなどが活性化します。これらが“ご褒美”となり、「快感」をもたらすため、僕たちはついアドバイスをしたくなるのです。
このように、「人を助けたい」「自分ならば助けられる」と強く思っている病気を、心理学の言葉で「メサイア・コンプレックス」と呼びます(DSM-5には存在しない民間呼称。正式な診断名は自己愛性もしくは境界性パーソナリティ障害が該当すると思われる)。メサイアとはキリスト教における「メシア=救済者」を意味し、「自分は人々を救うことができる特別な存在である」と思い込んでいる状態を意味します。
メサイア・コンプレックスを抱えている人は、一見すると自信がある人のように見えますが、実体はむしろその逆です。心の奥底に、自分でも気づかない「自信のなさ」「劣等感」「孤独」を抱えており、それを埋めるために周囲の人を無意識に利用しています。相手を助けることで、実は自分の「欠落」を埋めようとしているのです。
「どうしてもアドバイスをしたい!」と思うのであれば、むしろ自分の奥底に隠れている「劣等感」や「孤独感」と向き合う必要があります。そこを埋めない限りは、不健全なメサイア・コンプレックスから抜け出すことはできないからです。
(この記事は、『優れたリーダーはアドバイスしない』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、公認心理師
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』や『すごい傾聴』(ともにダイヤモンド社)など著作49冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に公認心理師・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童生徒・保護者などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。