レシピ多すぎ、コスパ悪すぎ、献立ムズすぎ、皿洗い嫌すぎ……! 初心者だろうと、日々料理を作る人だろうと、平等に立ちはだかる自炊の壁。時間も余裕もないのに、どうすれば自炊を続けられるのか?「料理を勝手に難しくしているのは自分です」と語るのは、料理を体得したミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。新刊『自炊の壁』では、初心者がレシピなしで料理できるようになるステップ100を完全網羅している。「気持ちが楽になった」「自分のための本だ!!」と話題が広がる本書から、内容の一部を紹介する。

自炊は、自分の帰る場所を作ること
山口祐加(以下、山口) 私は東京生まれ東京育ちで。近所に親戚もいないし、実家が自分のホームだという感覚があまりないんです。海の近くで育った人にとっての海みたいな、そこにいるだけで落ち着ける場所がないというか。私はよく、人にこういう質問をします。
「一生外食と一生自炊どっちがいい?」って。私は一生自炊を選ぶ。その理由は、体調を自分で管理したい、安心して食べられるものを食べたい、食を自分の目が届くものにしておきたいということ。それこそが、私が安心できる場所。自炊をしないことは、安心できる家がないみたいな感覚なんです。
佐々木典士(以下、佐々木) 食においても、地元やホームがない状況ってありうるということですね。ひとり暮らしで、ずっとUber Eatsとかチェーン店の外食で、平気な人もいると思うけれど、根無し草というか、落ち着かない感じはあるかもしれませんね。
山口 常に外食だと、なんか毎日お母さんが違うみたいな感覚というか、私はこわごわ食べるんですよね。口に合うかなとか、食べ切れるかなとか、本当に美味しいかなとか、そういうことを考えながら食べなきゃいけないから。
佐々木 外食は緊張状態で食べますよね。「会食恐怖症」という言葉もあるぐらいで。
山口 人前で食べるのが恥ずかしいのもあると思うし、混んでる店だと早く食べなきゃいけなかったりして、よく味わえなかったり。
佐々木 ひさびさに外食すると、知らない人の敷地にズカズカ入っていって、知らない人が作ったご飯を話もせず食べるのは、結構特殊な行為だと感じたりはします。
山口 自分で作ると、レストランのように特別美味しいわけではない。でも自分で自分の健康管理ができるし、明日もこの味が食べられるという安心感が確保できる。
佐々木 自分で作るようになると、プロのすごさもより実感できるし。
山口 私にとって自分の料理は、帰ってきたら間違いなくくつろげる場所。それが、私が「自炊は自分の帰る場所を作ること」と言っている意味ですね。
(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです。本書では、料理のハードルを乗り越える100の解決策を紹介しています)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。
山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。