日本紙幣を持つ女性写真はイメージです Photo:PIXTA

「町内会って何?」と思われるのも、いまや当然か。全戸加入が原則なのに、東京23区内では、1970年頃には加入率が50%を切っている。三鷹市、調布市、国分寺市、小平市、小金井市でも、2000年代初めに50%台まで落ちた。さらに外縁部の立川市、八王子市、町田市でも右肩下がりだ。こうも加入率が落ち続けているのは、東京だけの現象ではないだろう。そんな、町内会の意味を問い直す。※本稿は、玉野和志『町内会 ――コミュニティからみる日本近代』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。

町内会加入を誘われた若者は
「メリットあるんですか?」

 最近の町内会・自治会にとって困ったことは、とりわけ若い世代に町内会・自治会が当たり前に地域に存在することが、体験的に理解できない人が増えていることである。

 ある年齢より上の世代だと、小学生の頃に子ども会があったり、お祭りや運動会があって、それらを世話しているのが町内会で、あるのが当たり前で、入るのも当たり前という感覚が共有されていたかもしれない。

 しかし、ある年代より下の世代は、生まれ育った地域にもよるが、そのような体験がまったくない人も多い。そうすると、当然「町内会って何」とか、「入らなければならないの」という疑問が浮かんでくる。

 東京の立川や八王子などの都市が急激に加入率を落とした理由のひとつには、若い世代の流入の多い地域であることが影響している。

 新しく越してきた世帯への加入をお願いに行く町内会長さんたちの心が折れるのは、若い人が面と向かって「加入して何かメリットがあるんですか」と平気で聞いてくるときである。町内会という組織がその本性上、直接の個人へのメリットが説明しづらいこともあって、思わず立ち往生してしまうのである。「つべこべ言わずにつきあいなんだから入れ」と言いたくなるのだが、若い世代にそれは通用しない。

 筆者もインターネットの質問サイトを運営する団体からの取材を受けて、町内会とはどういうものかを一から説明したことがある。取材に来た人もその記事を読んだ人からも、「なるほどそういうことでしたか、よくわかりました」と言われて複雑な思いをしたことがある。町内会・自治会は、若い世代にとっては、かくもよくわからない存在になってしまったのである。