社員のモチベーションが上がらず、人が次々と辞めてしまう職場では、えてして社員を縛りつけるルールがはびこっているもの。では、社員のやる気を削ぎ、組織の成長を妨げてしまう“時代遅れ”のルールには、どんなものがあるのでしょうか? また、それが残ってしまう理由とは?
『組織の体質を現場から変える100の方法』を刊行した沢渡あまねさんと、『冒険する組織のつくりかた』著者である安斎勇樹さんに、社員のモチベーションやエンゲージメントを低下させる組織ルールの問題点について語ってもらいました。

「まともな社員」ほど辞めてしまう職場に共通する“たった1つの特徴”とは?Photo: Adobe Stock

一部の問題社員のせいで、
みんなががんじがらめになる構造

Q.人が次々と辞めてしまう職場は、どんなルールを社員に強制しがちなのでしょうか?

沢渡あまね(以下、沢渡)そういう組織にまず共通しているのは「とやかく言う文化」だと思います。そういう文化のせいで、働き方やコミュニケーションの仕方、成果の出し方などに対して、過剰なルールが設けられているんです。すると当然、本人の裁量がなくなり、まるで「子ども扱い」されているように感じてしまう。リモートワークを禁止したり、上司にメールする際の「てにをは」まで指導されたり……こういうことが積み重なると、社員の自主性が奪われ、エンゲージメントもガタ落ちします。

安斎勇樹(以下、安斎)めちゃくちゃ共感します。そういうルールって、まともな人ほど「なんでこのルールがあるの?」って疑問を持つんですよね。で、その答えをたどると、たいていは「一部の問題社員に対処するため」につくられたものにすぎなかったりする。

「まともな社員」ほど辞めてしまう職場に共通する“たった1つの特徴”とは?『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』安斎勇樹(著)、448ページ、2640円(定価)、発行:テオリア、発売:ディスカヴァー・トゥエンティワン

沢渡 一部のマナー違反のせいで、全体ががんじがらめになってしまう構造ですね。

安斎 結果として、健全な人がどんどん辞めていくしかも、そうした「謎ルール」が強化されるほど、会社に残るのは“ルールを破る人”や“うまく抜け道を見つけられる人”だったりするという逆転現象が起きることも……。

“してもいい”が足りない職場に、
人は疲れていく…

安斎「ルールづくり」に関して言うと、最近、リクルートが主催している「GOOD ACTIONアワード」の審査員をやらせてもらいました。そこで印象的だったのが、今回は「休暇を取りやすくするルール改革」が2件も受賞していたことです。

1つは「会社を休むのに理由はいらない」と改めて明言した制度で、「推し活」とか「孫のサッカーの試合」など、完全にプライベートな理由でも堂々と休めるという仕組みでした。結果、休暇取得率が飛躍的に上がったそうです。

沢渡 まさにルールをポジティブに再設計した好例ですね。明文化されていないけれどたしかに存在する「行動規範」に、遊び心や使いやすさを持たせていく──それってすごくデザイン的な行為だと思います。

「まともな社員」ほど辞めてしまう職場に共通する“たった1つの特徴”とは?『組織の体質を現場から変える100の方法』沢渡あまね(著)、384ページ、1980円(定価)、ダイヤモンド社

安斎 今あるルールの多くは「◯◯してはいけない」「◯◯しなければならない」という“縛る”タイプばかり。反対に、「◯◯してもいい」「◯◯することを歓迎する」という“許すルール”が圧倒的に足りていないんですよね。

ルールにも「終活」が必要

沢渡 しかも、ルールや慣習がすでに「形骸化している」ことにすら気づかれていないケースも多いです。安斎さんの『冒険する組織のつくりかた』でも強調されていましたが、そうしたルールに対する「振り返り」がすごく大事だと思います。

どんなルールも、最初は“天使”だったはずなんです。「これでミスが減る」「みんながハッピーになる」──そう信じて導入されたものが、時代や環境が変わるにつれて“悪魔”に変わってしまうことがある。

安斎 めちゃくちゃわかります。ルールの多くが「賞味期限切れ」になっているんですよね。最初は正しかったけれど、目的が忘れられ、手段が形だけ残ってしまっている状態ですよね。

沢渡 それでも、「前任者がつくったから」「みんなが守っているから」と思考停止して使い続けてしまう。その結果、ルールが組織の“足かせ”になってしまうんです。

安斎 だからこそ、「このルールは、いまも天使ですか? もう悪魔になっていませんか?」と問い直すことが大切なんですね。

沢渡 はい。「天使だった過去」はちゃんとリスペクトしながらも、もう役目を終えたなら、そっと手放していく。ルールにも「終活」が必要なんです。

(本稿は、『組織の体質を現場から変える100の方法』の著者・沢渡あまねさんと、『冒険する組織のつくりかた』の著者・安斎勇樹さんによる対談記事です)