漫画やアニメのブームが
日本食人気を後押し

 その背景に、日本そのものに対する高い評価があったことを見過ごすことはできない。

 年配のスペイン人は「キヤノン」「ニコン」「ソニー」「パナソニック」などの名をあげて、日本製品の良さを讃える。改装工事(編集部注:豆腐屋を開業するための店の改装工事)を監督したセラーノさんは大のバイク好きだが、「ホンダ、カワサキ、ヤマハ、スズキ」と続け、「日本製が最高だ」という。

 30代より若いスペイン人は「漫画やアニメのファンだから日本が好き」という人がほとんどだ。スペインには子ども向けにアニメを放送するチャンネルがあり、「ドラえもん」「ドラゴンボール」「キャプテン翼」などを見て育った世代が社会の中堅になりつつある。

 また、宮崎駿さんの作品は世代を超えて高く評価されている。ときどき豆腐を仕入れに来るベジタリアン向けのレストランを訪れたら、壁の一面が「となりのトトロ」の絵で飾られていた。コースターの図柄も「トトロ」だった。

 バルセロナには1990年代から続く「SALON DE MANGA(漫画サロン)」という催しがある。18回目の2012年は「食べ物漫画」のコーナーがつくられ、日本の有名な「京料理」の店が実演をすることになって、豆腐20丁の注文を受けた。開幕当日、私はカートに豆腐を積んで配達に行き、会場の大きさに驚いた。

 国際見本市が開かれるところで、そこに何万人もの人が詰めかけている。スペイン語に翻訳された漫画の単行本やキャラクター商品が見渡す限り並び、上映会は人があふれている。

 階段の周りには、漫画の登場人物の衣装やカツラを着けてコスプレした若い人たちが長い行列をつくっていた。行列の先頭と最後尾は見えない。相当な数だろう。

「食べ物漫画」のコーナーをのぞいてみた。ラーメン漫画だけでも2作品ある。ページをめくると、ラーメンをすするシーンに「ZU,ZUH」とアルファベットで擬音が描かれていた。カレー漫画、日本酒漫画などもあった。まるで日本食の教材のようだ。

 会場の一角には飲食できる広場があり、大衆酒場の店が焼きそばやたこ焼き、おにぎりをつくって販売している。どの店も行列ができ、OCHIAIのどら焼きにも人だかりがしていた。漫画と日本食が直結していた。