「ヒロ君」のラーメン屋がバルセロナで大成功したワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

「日本食ブーム」という言葉を見聞きするようになって久しいが、スペイン・バルセロナにも200軒以上の日本食レストランが存在する。代表的な寿司以外にも、お好み焼きやカレー、和菓子などを提供する店も。こうした流れを「ただのブーム」で終わらせない、現地で働く日本人たちの挑戦を紹介しよう。※本稿は、清水建宇『バルセロナで豆腐屋になった――定年後の「一身二生」奮闘記』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。

寿司やすき焼きだけじゃない
バルセロナの「日本食ブーム」

「日本食ブーム」という言葉を見聞きするようになって久しい。豆腐を仕入れに来る(編集部注:筆者は2010年から2021年までバルセロナで豆腐店を営んでいた)日本料理店の人たちから聞いたところでは、バルセロナ市内には200軒以上の日本食レストランがあるということだった。欧州の都市の中ではきわめて多い。ただし、そのうち日本人が経営する店は40軒ほどしかなく、8割近くは中華料理店が看板替えしたものだという。

 中国産の粉ミルクで乳児が病気になったことや、冷凍野菜に高濃度の殺虫剤が含まれていたことなどが欧州でも大きく報道され、多くの中華料理店が転業した。「日本食は高いけれど健康に良い」という評価が定着していたので便乗したといわれる。

 街のいたるところに「SUSHI」の看板がある。入り口に置かれたメニューを見ると、ほとんどの店が「GYOZA」も載せている。日本人のお客は、そういう店を「なんちゃって日本食レストラン」と呼んでいた。逆に言うと、寿司の店に商売替えしようと中国の人に思わせるほど「日本食ブーム」はバルセロナでも定着していたのだと思う。

 一方で、寿司以外の日本食を出す店が急増した。広島風お好み焼きと関西風お好み焼きの店が相次いで開店した。焼きそばやたこ焼きなどを出す大衆酒場の店も登場した。長野県でそば打ちの修業をしたイギリス人が茶そばと焼き鳥の店を開いた。「食堂」を名乗って開店した日本料理店は、寿司のほかにオムライスやカツカレーをランチタイムに出して話題になった。これらの店は豆腐を仕入れに来て、お客が着実に増えつつあると話してくれた。

 1983年開業の老舗だが、お菓子の「OCHIAI」の存在も大きい。店主の落合尚さんは、大福、まんじゅう、どら焼きなどの和菓子だけでなく、モンブランやショートケーキなどの洋菓子もつくっている。きめ細かいふわふわのスポンジや意匠を凝らした美しい形は、日本では見慣れたものだが、バルセロナではなかなかお目にかかれないものだった。

 寿司やすき焼き以外の多彩な日本料理がこの街に出現する様を、私は目の当たりにした。