要するに、流れにしてもムードにしても、先ほど述べた集中力、あるいはモチベーション、やる気といったいろいろな選手の心理的な要素を1つの言葉にまとめたものに過ぎない。1から説明をするのが難しいので、一般的に通じる流れやムードという一言で済ませているのだろう。

 その意味では「野球に流れはない」と言ったほうが正確だ。どうしても抽象的な言葉になりがちだが、メンタルの部分の表現の仕方にしたほうが野球の面白さはより具体的に伝わるはずだ。

 野球中継の解説者には、今、目の前で起こっているプレーについて話すだけでなく、未来のプレーを予測して、ファンにワクワク感を持たせてあげる役割があると思う。

 たとえば、投手が相手打線を3人でポンポンポンと打ち取って、「いい流れになりましたね」と話すのには、ファンに「じゃあ、次はいい攻撃ができるかも」と期待を持たせる効果があるだろう。

 私は、先に述べたように「流れ」という言葉は好きではないが、野球ファンが「いい流れ」という表現でワクワク感を抱いてくれるのであれば、やはり必要な言葉だろうとは思っている。

 私が野球解説で意識しているのは「ファンの目から見えない部分を伝える」ことだ。「今のプレーの素晴らしさはこういうところです」や「この選手は普段こういう練習をしているから、それが今日の試合に出ました」といった、中継を見ているファンがなかなか知り得ない情報をできるだけ話すようにしている。

 たとえば、2アウト満塁の場面でゴロエラーが出たときでも、ファンはみんな「ああ、やっちゃった」と思うはずだから、そこで同じように「もったいないです」などと言う必要はない。

 そのときに解説者が話すべきは、やはり「このエラーがどうして起こったのか」というファンからは見えにくい部分だろう。具体的には「走者の足の速さが気になって、慌てましたね」や「今の打球は回転が不規則で、難しいバウンドでした」といった解説になる。

常勝時代の西武ライオンズは
「勝ち方を知っているチーム」

 野球中継で「勝ち方を知っているチーム」や「野球を知っているチーム」という言い方を耳にしたことがあると思う。確かにそういう表現がぴったりのチームはある。

 1980~90年代の常勝チーム時代の西武ライオンズがそうだった。ここで自分が何をすべきか、選手1人1人がよくわかっていて、大事な場面で集中力を欠くような選手は1人もいなかった。